2021年04月22日
2021年4月6日、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂案が公表された(※1)。翌7日には、東京証券取引所(東証)の規則改正として、パブリック・コメント手続も開始されている(※2)。今回のCGコード改訂案は、多岐にわたる項目について、かなり踏み込んだ内容となっている。独立社外取締役、プライム市場上場会社向けの規律、サステナビリティに関する開示(特に、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への言及)、ダイバーシティなど、いずれも社会的に関心の高いテーマであり、関係者の間でも活発な議論が交わされている。
ただ、筆者は少々ひねくれているので、少し変わった視点からの注目点を紹介したい。「支配株主の責任」である。
<「支配株主の責任」? そんな原則あったか?>
厳密には、原則本体ではなく、5つある基本原則の一つにかかわる「考え方」だ。具体的には、次のように規定されている。
「支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはならないのであって、支配株主を有する上場会社には、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の整備が求められる。」(※3)
テーマとしては、グループ・ガバナンス、より具体的には、親子上場を含むいわゆる上場子会社に関連している。
<なんだ、上場子会社の話か。それならたいして目新しいものではないだろう。>
確かに、目新しい話ではない。本コーナーでも筆者は過去に取り上げたことがある。
しかし、「支配株主の責任」が正面から論じられたことは、CGコードのあり方の根幹にもかかわる大きなニュースだと、筆者は考えている。
<それはまたどうして?>
CGコードは、厳密には、東証の上場規則の一部を構成している(厳密には、有価証券上場規程の別添)。つまり、上場会社やその取締役会や経営陣などを対象としたものである。ところが、「支配株主の責任」に関する規定が盛り込まれたことで、事実上、CGコードは、上場会社の支配株主をもその射程に捉えたこととなる。
<上場会社のその先の株主まで、ということか?>
いわゆる親子上場の場合に限れば、親会社も上場している以上、CGコードの定める規律が及ぶことに、それほど違和感はないだろう。しかし、ここでの「支配株主」は、何も親子上場のケースに限られていない。極論すれば、個人のオーナーも含まれ得ることとなる。
<そこまで拡大して、実効性はあるのか?>
正直、筆者にもわからない。
CGコードの原則本体ではなく、「考え方」に記載されている点も含めて、あくまでも精神論にすぎない、という見方も可能であろう。
ただ、「考え方」とはいえ、CGコードに盛り込まれる以上、また、併せて、支配株主を有する上場会社自体にも、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の整備が求められる以上、支配株主のガバナンス上不適切な行動には、これまで以上に厳しい視線が向けられることが想定される。
そうした事例が積み重なっていけば、やがて会社法の立法論や解釈論に影響する可能性も否定できないように思われる。
<会社法にまで影響するなんて、少し大げさじゃないか?>
わが国でも、かつて平成26年会社法改正の折に、子会社少数株主等の保護の観点から親会社の責任について議論されたことがある。
このときは、最終的に見送られたが、今回のCGコード改訂案が「蟻の一穴」となって、今後、例えば、支配株主の少数株主に対する信認義務など、諸外国の事例などを参考に、改めて議論となることは、あながち荒唐無稽とも言えないように、筆者には思われる。
(※3)(※1)の金融庁ウェブサイト掲載の(別紙1)コーポレートガバナンス・コード改訂案pp.14-15
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主任研究員 横山 淳
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