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この関係を壊されたくないから、既成事実を作ってしまいましょう。

2017年05月22日

小林 俊介

まず少し旧聞に属するところになるが、1月FOMCから2月上旬にかけては、あたかも3月には利上げが行われないかのようなコミュニケーションが続いた。にもかかわらず、2月下旬からアナウンスの内容が翻り、3月利上げに突入していったことは記憶に新しい。なぜ利上げを急ぐことになったのだろうか。当コラムでも再三指摘してきたように、米国経済は現在、本格的な加速・過熱に向かう局面にはない。また実際、3月に提示されたFOMCボードメンバーの景気物価見通しは極めて穏当なものであり、かつ前回12月からの修正はほぼ皆無であった。ではこの見通しに織り込まれていない要素、すなわち税財政政策の効果を高く見積もったのだろうか。昨今の政治調整の失敗を見る限り、この推論もやはり筋が悪いと言わざるを得ない。

一方で「単純に株価が高かったから上げた」という見方も存在する。筆者の考えも少なからずこの見方に近いが、もう一歩踏み込んでこの推論を検証してみよう。まず各種の資産価格およびバリュエーションが高いという指摘は、折に触れて今まで何度もFed高官から発せられてきた。その背景には、米国企業によるレバレッジの拡大行動(債券発行を裏付けとした自社株買いやM&A)が存在してきた。そしてさらにこの企業行動の背景にあったのがQEによる社債金利の抑制である。従って逆説的になるが、Fedは「バブルを崩壊させてしまうリスクを恐れるがゆえに、可能な限りQEは維持する。その一方で、コントロールされた範囲でのバブルのガス抜きを目的として、利上げだけは緩やかながら必要に応じて行う」という戦略を取り続けてきた。

しかしこの戦略は共和党保守派からすこぶる評判が悪い。そしてその理由はシンプルだ。今回の「利上げ」は、乱暴な言い方をしてしまえば、金融政策というよりも、財政政策の色合いが極めて強い。通常の金融政策は、ドルの供給量を絞ってオーバーナイトの金利を引き上げる。しかし今回の場合、Fedのバランスシート、およびドルキャッシュ代替物の供給量が維持されたままであり、ドルの供給量を絞るという通常の金融政策手段を採用することはできない。代わりに今回の利上げは、Fedに預け入れられている準備預金に支払う金利を引き上げることで行われている。そしてこのように、バランスシートを維持したまま利上げを行えば行うほど、米国政府は莫大な財政支出を余儀なくされる。だからこそ、イエレン議長らが「利上げを行うなら予算審議が固まってしまう秋以前に済ませておこう」と考えたとしても何ら不思議ではない。

加えて、より重要なポイントは、イエレン議長自身の任期が18年2月に切れるという事実だ。そして次期議長が共和党保守派の意を酌んで拙速な資産売却を始めると、バブル崩壊のリスクが高まる。このリスクを未然に防ぐために、自身の任期が残されている間に極めて緩やかなペースでのバランスシート縮小をルール化し、「既成事実化」してしまいたいとイエレン議長が考えていたとしても、また不思議ではない。この観点に立てば、景気にも物価にも過熱感が確認できない中、敢えて無理筋な利上げを拙速に行っておくことで、バランスシート縮小の手法とペースを公表する公算が大きい12月FOMC時点では、実体経済も金融市場も低空飛行していることが望ましい、ということになるのだろう。

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