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「地政学的リスク」を踏まえた投資を考える

2016年05月25日

中里 幸聖

2015年3月のコラム「地政学の発想で世界地図を眺める」では、キナ臭い面から離れて、地政学の発想で世界地図を眺めることとしたが、今回はキナ臭い面も含めて、「地政学的リスク」を踏まえた投資行動を考えてみたい。

投資の基本は、投資しようと思う案件のリスクとリターンを計測・予測し、実施するか否かも含めた投資額を意思決定し、実行することである。実物投資と金融投資ではさまざまな異なる点があるが、リスクとリターンを把握しようと努めるという原則は共通である。リスクとリターンの把握を省略して資金を投ずる場合は、投資という範疇ではなく投機に分類すべきであろう(投機にも勝算を含めたある種の計算が求められるとの見解もある)。

「地政学的リスク」は、その分析対象(地理的な位置関係が政治や国際関係に及ぼす影響など)からして、政治や軍事の分野のものと考える人もあろう。しかし、「リスク」であるからには、投資を実施する際に本来は把握すべきリスクの一つである。ただし、地理という短期的には大きく変わらない事象を背景としているので、相対的に短期間の投資の場合は捨象しても良いかもしれない。

地理学そのものが、地形や気象、各種の産物などを対象としたものである。「地政学的リスク」といった時、大陸、半島、島嶼か、山岳地帯か平野か、寒冷か温暖か、特定の産物の自給度合(≒輸出入度合)などを把握すべき対象とする。産物は、特に食糧とエネルギーが重要な関心事項である。そうした産物を運搬する交通手段も大きな関心事である。そうした地理的背景を踏まえた上で、各国家がどのように運営され、どのような対外関係を展開しているか、をリスクの観点から分析することが、「地政学的リスク」を把握する作業である。

先述したように、地理は短期的には変わらない物ではあるが、温暖化や寒冷化の進展により自給できる作物が変わることはある。重要なエネルギーが変わることもある。産業革命以降では、石炭から石油への転換が最も劇的な変化であろう。石炭は相対的に遍在(地球の至る所にある)する資源だが、石油はかなり偏在(地域のごく一部にしかない)する資源である。しかし、いわゆるシェール・ガス革命、シェール・オイル革命により、エネルギーに関する「地政学的リスク」は足元で大きく変動しているとの見方もある(※1)

昔も今も、重量ベースでの輸送力は船舶が最も大きい。そのこともあり、海辺や川辺(特に川港の地域)に人口が集中する傾向がある。世界地図的観点で見れば、ハートランド(大陸の中心部)(※2)よりも、リムランド(大陸の縁辺部)や島嶼部に人口が集中している。

有事が生じた時、エネルギーや食糧を確保できるか、確保した物資を消費地まで運搬できるかが当該地域の住民はもちろんのこと、当該地域で活動する企業の長期的な基盤にも影響する。有事の際に、もし実質的な海上封鎖が実施されるようなことがあれば、リムランドに位置する国々はかなり深刻な影響を受けかねない。一方、島嶼諸国は、周り全てが敵性勢力ということにならない限り、完全な海上封鎖が実現することはないと考えられる。

世界が平和で、航行の自由があらゆる海域で保たれているのであれば、「地政学的リスク」はさほど問題にならないのかもしれない。しかし、現実の世界は至る所に紛争がある。世界的な航行の自由は米国に依存している側面が大きく、米国の力が相対的に衰えつつある現在、今後も航行の自由を維持し得るかは不透明である。相対的に長期間の投資を考えるのであれば、「地政学的リスク」も視野に入れ、実際にリスクが生じた時にどう対処するべきかを考えておくのが望ましい。

(※1)本コラムの足元の「地政学的リスク」等に関する認識は、兵頭二十八『「地政学」は殺傷力のある武器である。』(徳間書店、2016年)に基本的に拠っているが、全面的に同じわけではない。
(※2)ハートランドはユーラシア大陸中央部を指す言葉として英国のマッキンダーが用い、リムランドはユーラシア大陸沿岸地帯を指す言葉として米国のスパイクマンが用いた言葉であるが、ハートランドやリムランドの範囲は固定的ではない。ヨーロッパについては西欧、中国については伝統的な漢文明の中心地域である中原はリムランドと考えて良いと思うが、現在のEUや中華人民共和国はハートランド的な地域を含む。また、元々の用い方から離れて、陸地の中心部をハートランド、縁辺部をリムランドといった一般化された形で用いることもある。

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