日本版ISAの普及を願う
2013年04月09日
3年前に「日本版ISAは普及するのか」(2010年4月13日)と題するコラムを書いた。2010年当時は、2012年から日本版ISAがスタートすることになっていたが、その後の税制改正により2年延期され、いよいよ来年の2014年1月からスタートする(※)。
3月29日に成立した2013年度改正税法では、ISA制度で非課税口座を開設することができる期間が2014年1月から2023年12月までの10年間となり、非課税となる投資額が最大300万円から500万円になるなどの拡充が行われた。
この制度の目的は、自助努力に基づく資産形成を支援・促進し、家計からの成長マネーの供給拡大を図ることにあるとされている。
はたしてこの目的は実現できるのか。模範となった英国のISA制度と比較して、日本版ISAでは買換えが抑制されていること(口座内の運用商品の売却は、口座から引き出したとみなされること)や配当・分配金を再投資した場合に年間拠出額に算入され非課税枠を消費することなどを指摘し、日本版ISAは英国と比べてそれほど普及しないのではないか、ISA制度の導入により直接的に株式投資信託や株式の保有残高は増加しないのではないかという意見もある。
しかし、わが国の制度は、わが国の目的に沿ったものとして設計されているものと考えられる。例えば、買換えが抑制されていることは、金融機関が手数料を獲得するために商品を顧客に回転売買させるという販売手段を取ることを防止し、もって長期投資を促進することが意図されていると思われる。
英国でも1999年に導入され、当初は10年の時限措置の予定であったが、制度が評価され2008年の改正で恒久化された。その間、年間拠出額の上限を引き上げたり、制度を簡素化したりするなど種々の改正も行われている。わが国でもこれからISA制度をよりわが国の投資家や投資事情に合った制度に改善していけばいいのではないか。何よりも重要なことは、制度に対して懐疑的な捉え方をすることよりも、この制度を利用してどのように個人投資家のすそ野を広げるか、これまで証券投資の経験がない個人がリスクを負いつつも、いかにして成功体験を積み上げてもらうかということに金融機関をはじめとした市場関係者が注力することであろう。
これまで、わが国では、個人の金融資産を貯蓄から投資に振り向ける様々な施策が行われてきたが、あまり進んでいるとは言えない。ISA制度のスタートが、「貯蓄から投資へ」の流れを促進する大きな機会となることを期待したい。
※制度の概要については、拙稿、「日本版ISA、非課税投資額は最大500万円に」(2013年2月12日付大和総研レポート)
※大和スペシャリストレポート「2014年からスタートする日本版ISA」(2013年3月22日、ダイワインターネットTV)
を参照されたい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
- 執筆者紹介
-
金融調査部
金融調査部長 鳥毛 拓馬
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日