ボルカー・ルールの正式規則、大統領選後・年内発表の見込み
2012年11月01日
大統領選投票日を11月6日(火)といよいよ目前に控えた米国ですが、証券グループ関係者としては、選挙とは別にもうひとつ気になる事があります。それはいわゆるボルカー・ルール、デリバティブ規則などは、大枠はドッド・フランク法で定められていますが,未だ詳細な施行規則は完成していない事です。その部分は何時正式に発表されるのだろうかと言う事が気になるのです。デリバティブ規則に関してはいまだはっきりした事は言えませんが、ボルカー・ルールについては,業界紙のアメリカン・バンカー等が繰り返し「大統領選後・年内」との観測を発表しており、これといった反対論も見られない事から、同紙の観測通りになるのではないかと思われます。大統領選後も少なくとも来年初めまではオバマ政権のままですから、「大統領選後・年内」であれば、実務的にも最高のタイミングであると思われます。
ボルカー・ルールの大枠はドッド・フランク法で定められているのですが、ここでもう一度振り返っておきましょう。ボルカー・ルールとは、商業銀行に対して原則として株式の自己売買やカバード・ファンドへの投資等を禁止する規則の事です。自己売買等の禁止には大きく分けて二つの類型の例外が認められています。第一には、マーケット・メイキング、引受活動、リスク緩和の為のヘッジ活動に伴って自己売買が行なわれる場合です。これらはいずれも証券市場の育成にプラスとなる事から、例外が認められているものです。第二にはカバード・ファンド(ヘッジ・ファンド、プライベート・エクイティ・ファンド,もしくは同様のファンド)に投資したり、カバード・ファンドと一定の関係を持ったりする場合の例外も認めています。
原則としては、商業銀行の株式の自己売買は禁止されている理由は何かと言う事ですが,商業銀行の業務の基本は預金者の資産の着実な育成にあると考えられる事です。預金者の資産の着実な育成を奨励する為に、政府はコストをかけて商業銀行に連邦預金保険まで付しているのです。ですから、他方で商業銀行がリスクの高い自己売買業務を行うとすれば、これは商業銀行が自らの利益を求めて損失を出した時にそれを補填する事は納税者の資金を用いる事となり,典型的な利益相反という事になってしまうからなのです。商業銀行が高リスクの自己売買に従事すれば、預金者の資金がリスクに晒される事になり、預金保険を付する趣旨に反する事になります。仮にそのリスクも保険でカバーするという事になれば最終的には、納税者が保険コストを負担しなければならない事になり、納税者の権利が損なわれるのです。このように納税者の権利を守る為には、商業銀行と預金者・納税者の間で利益相反が起きない様に、商業銀行が自己売買業務に従事しない事が不可欠なのです。
先程から述べているように、ボルカー・ルールの大枠は既にドッド・フランク法という法律で定められているので,施行規則がそれに反する内容を決定する事は絶対に有りえませんが,細則がどういう形で決定されるのかは,証券市場関係者としてはやはり見逃す事のできないポイントであると言えましょう。年内発表と言う事であれば、年内に行うべき必須のチェック作業が一つ増える事になりましょう。
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