オバマ米国大統領のビジネス税制改革提案

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2012年03月16日

  • 吉川 満
2月22日、米国のオバマ大統領は五つの鍵となる要素から構成された、米国への投資の長期的なインセンティブを創出する包括的な ビジネス税制改革を提案しました。税制改革といっても、主眼は税負担の軽減に置かれています。米国では依然として、2008年経済危機が尾を引いており、高失業率問題なども解決されていないので、ビジネス税制改革を通じて、景気面からも本格的な梃子入れをしようと考えたものと思われます。ビジネス税制改革といっても、現代社会においては株式会社を中心とした法人形態でビジネスが行なわれていますので、より具体的には、法人税制改革を中心に構想されています。同日の財務省のウェブサイトで、ガイトナー財務長官が内容を解説していますので、それに沿って、オバマ大統領の提案の内容を眺めて見る事にしましょう。ガイトナー財務長官の解説は、単に「ガイトナー財務長官の所信表明(※1)」 と題して行なわれました。内容は五つのポイントに分かれています。要点は次の5ポイントに纏める事ができます。

(1)数十にも及ぶ援助金を廃止し、同時に最高法人税率を現行の35%から先進国平均に近い28%に引き下げる。
(2)米国において物を製造することに対する、強力なインセンティブを含むべきである。
(3)海外の所得に対する法人税率を引上げ、移転価格の悪用を厳しく取りしまる。
(4)中小企業に対する課税を軽減する。特に中小企業の投資に対する課税を軽減する。
(5)財政的に責任ある形で、税制改革を実現する。

これらは税制改革のポイントとして挙げられているものですから、いずれも重要です。これらのポイントの相互関係を纏めてみると、次の様に言う事ができるでしょう。第一のポイントは、特定の業種等に対して与えられている援助措置を大幅に整理し、同時に法人税率全般を大きく引き下げるというのです。これは今回提案したビジネス税制改革の最重要ポイントを端的に纏めた物と言う事ができます。第二のポイントは、全体に通用する考え方を纏めたものです。米国で製造する事に対する強力なインセンティブを付与すると言うのです。少数ながら現実に利用できる措置に置き換えていくとしています。このインセンティブ・チェンジの考え方は、第一のポイントに関しても妥当するものです。第三のポイントは国際税制に手を入れて、米国投資のディスインセンティブを減少する事としています。具体的には海外での所得に対する最低税を引上げ、かつ移転価格税制の悪用に対する対処を強化する事としています。又、米国企業が製造拠点を海外に移した場合に、現在得る事ができる税額控除に代えて、海外事業を国内に戻した場合に所得控除が得られるものとしています。第二のポイントで挙げたインセンティブ・ミックスの変更の考え方をまさに実行に移す物と言えましょう。第四のポイントは中小企業減税で、これもまた第二のポイントの実行例と言えましょう。第五のポイントは、財政面への配慮を謳ったもので、最近、欧州危機などでも浮上している問題点への配慮を明らかにしたものです。

オバマ大統領がこのビジネス税制改革を発表した後、共和党でもロムニー大統領候補が類似の減税措置を提案したと報じられ、このビジネス減税問題に関しては現在の局面をリードしているのは民主党という事が言えそうです。


(※1)「ガイトナー財務長官の所信表明」
第一に、オバマ大統領は、我々は経済成長を推進し米国における投資を奨励すべく、法定法人税率を引き下げるために、数十にも及ぶ税制面の援助金や抜け道を廃止すべきだと考えています。特別の種類の事業活動や、特別の業種に対する特別の有利な扱いを廃止する事により、生産性と経済成長を傷つけている歪みを我々は減少させる事ができ、財政的に責任のある形で法人税率を引き下げる事ができるようになります。オバマ大統領の提案する枠組は、最高法人税率を現行の35%から、28%にまで引き下げる事を提案しています。この28%と言うのは、他の先進国中で一般に行なわれているものの平均に近いものなのです。この措置は米国の法人税システムをより競争力のあるものとし、米国に投資することのインセンティブを高めるでしょう。
第二に、オバマ大統領は、税制改革は物を米国において作り出し築き上げる事に対する、強力なインセンティブを含むべきだと考えているのです。我々は注意深く設計された、製造業の為の実効税率を引き下げる為の、恒久的なインセンティブを提案します。我々は現行の複雑で、企業が計画したり、依存したりする事ができないインセンティブ・ミックスに代えて、長期投資に確実性を提供する為の、より少数の長期的なインセンティブを提案します。
第三に、オバマ大統領は、我々は国際的な租税システムを強化しなければならないと考えています。今日のグローバル経済は、税率の低い国に投資を移し、税率の低い国で利益を得るという、強力なインセンティブを提供しています。我々は、現在の法律が提供している、米国外に所得と投資を移転する機会を削減したい。これを実現するために、我々は海外での所得に関する新たな最低税率(筆者注:具体的には引き上げられた最低税率)と、移転価格の悪用に対するより強力な防衛手段を提供します。かつ米国企業が現在、海外に生産拠点を移した場合に得る事ができる税額控除に代えて、当該事業を米国に戻した場合には費用相当分を所得控除として与えることで代替します。引き下げられた法定法人税率に加え、これらの改革は米国に投資する事のインセンティブを改善する助けとなるでしょう。
第四に、オバマ大統領は、中小企業に対する税の重荷を軽減する事を提案しています。我々は中小企業による、中小企業内部への投資に対する課税を軽減したいのです。かつ、我々は、中小企業に対する税制を簡素化したいのです。中小企業が自らの利益をより多く投資と雇用創出に配分し、税法遵守に今ほど気を使わなくて済むようにする事が目的です。
最期に、オバマ大統領は、ビジネス税制の改革は、財政的に責任のあるやり方で実行されなければならないと考えています。将来の財政赤字を増やさない様にする事が目的です。税制改革は経済成長を支援する事ができます。けれども減税はそれ自体がプラスになるというものではありません。我々は、議会が選択したインセンティブが税制改革の一部として成果を挙げるよう、保証していかなければなりません。

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