台湾総統選挙と中国
2011年12月26日
2012年1月14日に、台湾で総統・副総統選挙と、日本の国会にあたる立法院選挙が行われる。与党・国民党の馬英九総統と最大野党・民主進歩党の蔡英文主席のどちらに軍配が上がるかは、台湾のみならず、中国にとっても大きな関心事となっている。
馬総統は08年の就任以降、成長著しい中国との経済関係の強化を推進した。台湾のハイテク産業は安価な労働力を獲得することで躍進し、中国にも高度な技術を擁する生産拠点が出来た。2011年1月1日には中台の両岸経済協力枠組(ECFA)が発効し、2011年の台湾の対中(香港含む)輸出は、台湾経済部国際貿易局の予測で1,200億米ドル超と過去最高になる見通し。台湾企業による中国人の雇用は、台湾の就業者数に匹敵する約1,000万人、中国在住の台湾人は約120万人といわれ、台湾企業の売上高を見ると、既に中国での売上高が台湾を上回っている企業が少なくない。
同時に、中台関係の深化は、台湾企業にとってプロモーションや投資面などで利便性が高い香港のビジネス拡大にも繋がった。中国との経済貿易緊密化協定(CEPA)を背景に香港には台湾企業約5,000社が拠点を設置し、台湾企業の香港経由での中国との貿易額は右肩上がりである。このように、ビジネス界では、台湾だけでなく、中国、香港からも馬総統の再選を望む声がある。
ただ、馬総統と対抗馬の民主進歩党・蔡主席の支持率は拮抗している。蔡主席は“女性候補”“若返り”を有権者に印象付け、中国との関係見直しを掲げ、疲弊する農業・中小企業など庶民の声を代表する戦略をとっている。2010年11月に行われた5直轄市長選挙では総得票数が与党・国民党を上回る結果を収めた。
2011年11月には中国への直接投資が欧米からの軟調を受けて、前年同月比▲9.8%となった。この中、中台関係も見直しが進むのか?台湾は2011年9月に日台投資協定を締結しており、台湾を経由した“日本企業による中国投資”という呼び水も持っている。中国としては中台の経済関係が停滞するリスクを避けたいだろう。中国の次期総書記と目される習近平・国家副主席は、中国の中でも台湾と関係が深い福建省での経験が長く、思い入れのある台湾と中国の互恵関係のさらなる飛躍を目指しているといわれる。台湾の有権者がどのような選択をするのかが大いに注目される。
(大和の中国情報2012年1月号『今月の視点』より転載)
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後藤 あす美
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