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ドルを売却しなかったツケ

2011年02月21日

金融調査部 主任研究員 長内 智

世界経済の持ち直しを受けて、日本経済にも踊り場から脱却する兆しが見られるが、企業は今ひとつ元気がない。最大の要因は、円高が輸出企業の足を引っ張っていることであろう。昨年5月以降の円高トレンドは一服したものの、1ドル=80円台前半という現在の為替水準は、企業収益に向かい風となっている。

昨年後半、円高の急進が日本経済に悪影響を及ぼすとの懸念から為替介入を求める声が高まり、政府・日銀は9月15日に約6年半振りとなる円売り介入を実施した。ただし、実際に為替介入を行ったのはその日限りで、その後は口先介入をするだけに留まっている。他国から「日本は為替操作国である」と非難されるのを避けたいとの政府の思惑が透けて見える。

理念上、為替操作を行わない自由な変動相場制度が良いということに異を唱える者はいないと思われる。しかし現実に目を向ければ、政府・中央銀行による為替介入を一切行わない「完全な変動相場制」を徹底している国は見当たらない。為替相場の急激な変動が経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)から乖離して、自国経済にとって悪影響を及ぼすと主張できるときは、為替介入が容認されるのである。

それでは、円が独歩高の様相となり、日本経済の下押し圧力が強まっていた昨年の経済環境下においても、他国が日本の為替介入に対して非常に厳しい目を向けたのは何故だろうか。その原因の1つとして、日本は円売り介入に過度に偏っていた点が指摘できる。

過去を振り返ってみると、日本は1990年代にはドル売り介入も実施していたが、2000年代は円売り介入のみであった。「円が高くなったら円を売って対抗するが、円が安くなったときは何もしない」では、身勝手な国と見なされても仕方がない。要するに、2005年以降の円安局面において、ドルを少しも売却しなかったツケが出ているのである。

今年は1971年のニクソン・ショックから40年目という節目の年である。この間、円の価値はドルに対して約4倍にまで高まった。当面、「他国より低いインフレ率」や「経常黒字」などの経済構造が中長期的な円高圧力を生むというメカニズムは変わらず、外生ショックにより円が急上昇すれば再び円売り介入が求められる場面も出てこよう。しかし、円高が一服して短期的に円安へ大きく振れるような局面では、ドルを売却して円を買い戻すという一手も指しておきたい。

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