日本企業によるBOPビジネス

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2010年10月19日

  • 瀬越 雄二
1.BOPビジネスとは
近年、BOPビジネスが注目を集めている。BOP(Base of the Pyramid)とは、世界の人口のうち、一人当たり年間所得が3000ドル以下の低所得者層を指す。BOP市場は、世界人口の約7割に相当する40億人、潜在的な市場規模は我が国のGDPに相当する5兆ドルと言われている。これらのBOP層を対象とする途上国事業をBOPビジネスという。では、BOPビジネスが従来のビジネスと異なる点はどこなのか。単に低所得者層を対象にしている点だけであろうか。実際のところ、両者には大きな相違がある。以下、この点に言及し留意点を探る。

2.BOPビジネスと従来型ビジネスの相違
従来、開発途上国の低所得者層には購買力がないという認識から消費者と見做されなかった。ところが、1990年代後半から途上国における貧困撲滅等のキャンペーンが活発化(2015年までに貧困層の半減を唱える「国連ミレニアム宣言」が2000年に採択された)し、この流れの中で登場したのがBOPビジネスである。従来の政府開発援助の考え方は、ODAという援助資金の流入により開発途上国の社会・産業基盤整備が行われ、民間直接投資の呼び水効果が生まれ、その結果、経済活動が活発化し市民生活が豊かになるというものであり、経済支援を除くと直接的に貧困撲滅に向けた政策は存在しなかった。それに対して、BOPの考え方は、低所得者層の自立の重要性に着目して、低所得者層のニーズに合った商品サービスを提供し、逆に低所得者層は主体的に消費活動を行う。BOPビジネスの浸透は、地元に雇用創出効果を発揮し、低所得者層の所得向上に資するというものである。また、BOPビジネスには、貧困飢餓の撲滅、初等教育の普及、疾病蔓延防止など従来政府が中心となり実施してきた開発政策目標を、政府等のステークホルダーの支援を受けて、民間事業者が事業展開を通じて実現するという特徴がある。

3.日本企業によるBOPビジネスの留意点
昨年来、日本政府は経済産業省を中心に日本各地でBOPビジネスの推進のためにセミナー等の普及活動を実施しているが、日本は欧米諸国に比べて当該ビジネスの推進が10年遅れている。官民共にBOPビジネスに注目しているが、はたして日本企業はBOPビジネスを実践する意思と能力があるのか。まず、留意する必要があるのは、BOPビジネスはあくまで民間の商業活動であるという点である。仮に事業のスタート時において日本政府からの財政支援が受けられるとしても、それは一過性のモノであり、結局のところ民間事業として収益性が問われることになる。BOPビジネスは決して第三セクタービジネスではない。また、低所得者層が特定商品またはサービスに関心を持つには啓蒙活動も必要であり、長い年月を要する。その意味で身の丈に合った事業計画の作成が不可欠となる。
第二に、BOPビジネスは通常の新規事業と変わることのない民間事業であり、市場ニーズに合致した商品等の提供が大前提となる。市場ニーズの把握は国内市場よりも遥かに困難であろう。一般的に、現地での社会情勢または市場ニーズを理解するためにNGO/NPOとの協力が必要と言われている。実際、政府が開催するBOPビジネス説明会には多くのビジネス経験豊富な人々が参加している。他方、スピーカーは、概してビジネス経験の乏しい若手の研究者またはNGO/NPO職員である。この種の集まりでは、BOPビジネスに関する政策的枠組みについて多くの情報を得られるには違いないが、市場ニーズに係る情報はない。事業性が確保されているか否かは、結局のところ、事業者が過去の経験に基づき把握し判断することになる。この点に関しては国内海外の違いはない。
日本では、長らく、需要者(消費者)ニーズが軽視され、供給者目線で商品またはサービスが提供されてきた。日本企業は、サプライサイド思考からデマンドサイド思考への転換期を迎えて久しいが、未だストラグルが続いている。BOPビジネスの事業者には、一にも二にも、自らの目で市場ニーズを確認し、身の丈に合った事業計画の作成が要請される。今後、ベンチャー企業型BOPビジネスの展開に期待したい。

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