宙に浮いたSTP

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2004年06月14日

  • 新林 浩司
ここ数年来、米国の証券決済システム改革の重点課題として検討が進められていたT+1(注1)およびSTP(注2)の実施判断がまもなく下されようとしている。

STP/T+1は共に証券決済の事務効率化と、決済リスクの軽減を目指すものである。これまで、米国では証券取引委員会(SEC)の指導の下、米国証券業者協会(SIA)主導で検討が進められてきたが、決して平坦な道のりではなかった。

これまでの流れを復習すると、米国証券業界では1995年にT+5からT+3決済に移行した後、T+1が次の目標となった。SECの当初提案は2002年6月の実施であったが、SIAが検討委員会を立ち上げて研究した結果、三年半の準備期間が必要であるとし、移行実施のターゲットが2004年6月に決定された。その後、2001年9月に同時多発テロを受けて1年間の実施期限延長を発表し、さらに2002年7月にはT+1実施を一時凍結した上で、2年後に改めて実施判断を下すことを決定していた。その2年の保留期限を間近に控え、T+1実施に関する見解が示されようとしている。

とはいうものの、どんな判断になるのか、既に動向が見えてきている。SIAは「STPの検討は具体的な進展があったものの、T+1の実施準備は整っていない」と伝えると共に、STP検討委員会を7月に解散する予定であることを発表している。また、上位組織であるSTP実行委員会は「ビジョン2010実行委員会」に引き継がれ、向こう5年間に渡り、証券業界発展のために枠を広げた課題の研究と優先順位付けに取り組む形となる。

STP/T+1実施は、証券業界全体でのインフラ投資額が大きいものの、移行後の効率化とコスト削減メリットが大きいとされていた。しかしながら、機関投資家側(バイサイド)のメリット享受は証券会社側(セルサイド)ほど期待できないなど、これまでもその意義を疑問視する声も多く、業界全体の合意形成が進んでいなかった。そのため、T+1移行の重要な事務処理基盤としてのSTPに焦点を当てるようにしたが、市場参加者の立場によってはSTPの定義や意味合いが異なり、動機付けが困難な状態であった。このような状況の下、T+1への移行を前提とし、ある程度の強制力を持たせてSTPを推進する決定が下されることになるかどうかが注目されていた。

委員会の名称からSTPを外し、2010年に向けた広範囲に渡る課題整理に取り組むことを発表した状況では、短期間でT+1に移行する可能性はもはや皆無と言える。STPの推進に関しても、各機関の判断に委ね、強制力を課さないことが予想される。情報技術が世の中を大きく変えると喧伝された同時期に計画されたSTP/T+1であるが、ITバブルの後遺症のように判断が長期に渡り引きずられる結果となった。周辺課題の整理を含めた冷却期間を置き、市場整備が進んで業界全体のコンセンサスが得られる時期が到来してからの再検討事項とするシナリオが濃厚である。

注1)T+1:約定日の翌日に決済する制度の通称。現在、証券の決済は取引日の3営業日後(T+3)に行われている。
注2)STP:Straight-Through Processing:手作業を介在させず、情報技術を用いて約定から決済までの事務一括処理を行う。

(表)米国証券業界におけるこれまでのSTP/T+1の流れ
時期目標期限検討委員会の名称の変更
1999年2002年6月実施を視野に入れる。T+1検討委員会。
2000年2004年6月実施。(STP/T+1検討委員会が通称となる)
2001年
10月
2005年6月実施。 
2002年
7月
2005年6月実施を一時凍結。
2004年半ばに判断すると発表。
STP検討委員会。
2004年
半ば
判断の発表へ。
・SECへの回答期限(6月16日)
・SIA理事会(7月14日)
・STP検討委員会を解散
(7月予定)。
・STP実行委員会はビジョン2010実行委員会に引き継がれる。
出所:SIAホームページ等を基にDIR作成

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