米国:AIが変える人材需要—中堅・シニア優位も、その持続性は「?」
2026年06月24日
米国ではAI活用の積極化に伴い、AIによる失業リスクの拡大への懸念が強まっている。実際にAI活用が進んでいるセクター(金融や情報、教育、専門・科学技術サービス)の雇用者数は足元で減少傾向にある。それ以外の業種では雇用者数は増加し続けているが、AI活用が広がるにつれ、雇用削減の波は拡大する可能性がある。
もっとも、AIによる雇用への影響は、職位によって大きく異なる。民間調査会社のオリバー・ワイマンが実施した世界の「CEOアジェンダ(2026年)」によると、2025年時点に比べて、企業の若手人材に対する採用意欲が半分程度まで低下した。若手人材が担う業務はAIを通じて代替しやすいと捉えられているようだ。また、オリバー・ワイマンは、北米はアジアや欧州に比べて若手人材の採用に対して相対的に積極的だが、それでも2026年は大きく低下する傾向があると指摘している。こうした中、2026年5月に元Google CEOのエリック・シュミット氏がアリゾナ大学の卒業式に登壇し、AIを称賛した際には、卒業生からブーイングが巻き起こった。特に若年層のAIに対する警戒感は強まっているようだ。
若手人材への需要が抑制される一方、中堅・シニア人材に対する需要は増している。これは、現時点ではAIが代替しにくい、実務経験から得られる洞察力に基づいて判断を下す人材へのニーズが高まっていることを示唆している。具体的には、顧客や現場の状況を踏まえた優先順位づけ、複数の論点を統合した意思決定、想定外の事象への対応などは、経験に根差した判断力がAIに対して優位性を持ちやすいと、企業は考えているのだろう。
しかし、若手人材の採用を抑制し、中堅・シニア人材を増やす動きが定着すれば、将来的には経験豊富な人材が不足する可能性がある。つまり、若手人材のキャリアラダー(階層的にキャリアを積み上げる仕組み)の機能が弱まることで、米国企業の中長期的な成長の制約となる恐れがある。
そして、中堅・シニア人材に対する現在の需要の高まりは、将来にわたって維持されることを意味するわけではない。むしろ、AIを前提とした環境下では、若手人材が中堅・シニア人材の担ってきた役割を早期に習得し、若手人材の競争力が相対的に高まる可能性もある。さらに、仮に中堅・シニア人材の不足が顕在化すれば、企業はそうした役割自体をAIで代替する方向に技術開発や業務設計を進めることも考えられる。
こうした構図は、AIと人材の関係が固定的ではなく、相互に影響を及ぼしながら変化し続けることを示唆している。米国の労働市場は、技術と人材の適応が繰り返される過程にあるといえる。こうしたダイナミズムが相対的に早期に顕在化している米国の動向は、今後のグローバルな労働市場の行く末を考える上で、先行的な示唆を与えうるといえる。
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経済調査部
主任研究員 矢作 大祐

