生成AI時代の仕事を読む「時間差」の視点

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2026年04月03日

2026年に入り、生成AIをめぐる競争の焦点は、単なる対話性能の優劣から、表計算や資料作成、情報分析といったオフィス業務をどこまで担えるかへと移りつつある。同年1月にはAnthropic社がClaude Coworkを打ち出し、法務や財務、営業などの業務を自動化する方向性を示した。同年3月にはOpenAI社もGPT-5.4を投入し、Excelとの連携や金融データとの接続を打ち出した。

こうした動きと並行して、みずほフィナンシャルグループが事務職の業務を今後10年で最大5,000人分減らしつつ解雇はせず再配置する方針を示し(※1)、千葉銀行もAIを「同僚」と位置付けて2,000人分の業務を担わせる構想を打ち出した(※2)。このように生成AIは単なる効率化ツールにとどまらず、組織や人員配置の見直しを促し始めている。ここで重要なのは、雇用への影響を急いで断じることではない。むしろ注目すべきは、既存の仕事の代替と新たな仕事の創出が時間差を伴って現れる可能性である。

この時間差には理由がある。企業が新技術に接したとき、まず進みやすいのは既存業務の効率化だ。資料作成、データ入力といった既存工程への適用は比較的短時間で、効果も見えやすい。他方で、新技術を前提に新たな商品やサービスをつくり、それに対応した職務や組織を立ち上げるには時間がかかる。したがって、生成AI導入による新たな仕事の創出には時間がかかるため、導入初期に起きる既存の仕事への生成AIの代替が目立ちやすくなりがちだ。既存業務が代替される側面だけを見れば、雇用は失われる一方だという印象に傾きやすいが、それは変化の一断面にすぎない。

生成AIでは先行する効率化の期間が、過去の技術よりも短い可能性がある。ChatGPTなど一般ユーザーにも使いやすいアプリが登場し、比較的低コストで手軽に試せる環境が整っている。こうした条件の下では、効率化が過去以上に速く、広く見られやすい。実際、米国では生成AIの利用が短期間で急速に広がり、仕事での活用も速く浸透したことが報告されている(※3)。

そして、変化は仕事の代替だけでは終わらない。米国ではすでに、OpenAIやAnthropicで、顧客現場に深く入り込んで生成AIを導入実装するエンジニア(Forward Deployed Engineer、FDE)やソリューション設計担当者(Solutions Architect)といった職種の採用が進んでいる。ここで重要なのは、新たな技術が新たな役割を創出し始めている点である。生成AIが業務に浸透するほど、単に使う人だけでなく、導入を設計し、定着させ、運用し、顧客実装につなぐ人も必要になる。こうした動きは、生成AIの普及が既存業務の代替だけでなく、時間差を伴って新たな仕事を生み出すことを示していよう。

したがって、生成AI時代に問われるのは、足元で代替が目立つ局面であっても、その先に立ち上がる仕事をいかに早く構想し、組織に実装できるかだ。その構想力と実行力こそが、企業の明暗を分けることになるだろう。

(※3)Bick, Alexander, Adam Blandin and David J. Deming (2024, 2025) “The Rapid Adoption of Generative AI” NBER Working Paper, No. 32966, September 2024, Revised February 2025, National Bureau of Economic Research

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新田 尭之
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 新田 尭之