Dexit(ドイツのEU離脱)はあり得るか?

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2025年01月24日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

世界中で多数の選挙が実施され、選挙イヤーといわれた2024年は通過したが、欧州では2025年も引き続き、選挙動向が大きな注目点になると見込まれる。目先、最大の政治イベントは2月23日に予定されるドイツ連邦議会選挙である。

世論調査によれば、現在、議会第2党のCDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟)の支持率が30%程度で1番手となっている。他方、議会第1党のSPD(ドイツ社会民主党)の支持率は15%程度まで落ち込んでおり、2021年9月の選挙以来、およそ3年半ぶりにCDU/CSUが第1党に返り咲く公算が大きい。

もっとも、今回の選挙で政権交代以上に注目されているのは、極右・AfD(ドイツのための選択肢)がどれだけ勢力を拡大するかであろう。AfDは2024年9月に行われた旧東ドイツ地区、チューリンゲン州の州議会選挙で、2013年の結成以来、初めて州議会の第1党になるなど、若年層を中心に支持を拡大している。また、米国トランプ政権の政府効率化省共同委員長に就任したイーロン・マスク氏が、AfD支持を表明したことも大きな話題を呼んだ。ドイツ全域のAfDの支持率は20%強とSPDを上回っており、世論調査通りの結果となれば、AfDは連邦議会でも議会第2党へと躍進することになる。

過激派とも称されるAfDの台頭には様々な懸念があるが、ドイツのみならず欧州全体に影響を及ぼし得る政策として、ドイツのEU離脱への警戒感が高まっている。AfDはそもそもEUの政策に反対するために結成されたという経緯があり、今回の選挙公約にもEU離脱を検討する用意があると明示されている。2024年6・7月に行われたフランス総選挙の際には、EUに批判的な極右・国民連合の支持拡大を受けて“Frexit(France+exit)”の可能性が取り沙汰されたが、2025年は“Dexit(Deutschland+exit)”が大きな話題になる可能性がある。

しかし、AfDに対する支持が広がっているのは確かである一方、必ずしもドイツ国民の間でEU離脱を求める声が高まっているわけではない。やや古いデータにはなるが、2023年11月にコンラート・アデナウアー財団が公表した調査によれば、ドイツ国民の87%がEU加盟継続を望んでいるとされる(※1)。AfDの支持者に限れば、EU離脱支持の割合は大幅に上昇するものの、それでも42%と半数を下回る。

加えて、手続き上、ドイツのEU離脱は容易ではない。ドイツ基本法(憲法)には、EUへの協力を定める条項(第23条)があり、EU離脱のためには基本法を改正する必要があるとみられる。基本法を改正するには連邦議会、および連邦参議院でそれぞれ3分の2の賛成を得る必要があるが、AfD以外にEU離脱を主張する政党はなく、同意が得られる可能性は極めて低い。また、AfDの共同代表であるワイデル氏は、EU加盟の是非を問う国民投票を推進する意向を示しているが、ドイツには国民投票という制度が存在しない。これはナチスの経験から、ドイツでは扇動的な政治手法に対する警戒感が強いためであり、国民投票の実施のためには、やはり基本法の改正が必要とみられる。

こうした事情を踏まえると、ドイツのEU離脱は話題となっても現実的とは言い難い。極右への支持の広がりを見過ごすわけにはいかないものの、少なくともEU離脱はあくまでテールリスクであり、冷静に見極めていく必要があるだろう。

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橋本 政彦
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ロンドンリサーチセンター

シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦