ソーシャルメディアは経済への影響力を増すか?
2025年01月20日
昨年は、ソーシャルメディア(SNS)の影響力増大を強く意識した年となった。とくに内外の選挙においてSNSでの発信が強く影響したという指摘が多く、今後の選挙活動においてSNSを積極的に活用しようとする陣営が急増することは容易に想像される。今もってSNS活用度の低い筆者が言っても説得力に欠けるが、社会全体として、情報やニュースの発信・収集の入口がSNSに移っていく蓋然性は極めて高いと考えられる。
ここに来て影響力が意識され始めた背景の一つには、コロナ禍を経てYouTubeなど動画系SNSの活用が多くの世代に広がったことが挙げられる。総務省情報通信政策研究所が「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を毎年行っているが、その中の設問の一つとしてYouTubeなどオンデマンド型の動画共有サービスの利用率を聞いている。直近(令和5年度調査)と5年前(平成30年度調査)を比較してみると、全体で71.8%から90.2%に高まった。40代以下の階層では5年前にはすでに80%前後の高い状態に達していたが、特徴的なのは60代において36.5%から72.2%へと、5年間でほぼ倍増したことだ。高齢者も含めて多くの世代が動画系SNSに普段から接するようになった、ということを示している。
これまでも、BtoCビジネスにおけるマーケティングでは、SNSが積極的に活用されてきたが、これに拍車がかかる可能性がある。物販、サービス消費、インバウンド消費などにおいても、もはやSNSを抜きには考えられなくなってきた。さらに言えば、BtoBビジネスにおいても、広報、IR、採用などの分野のみならず、商品開発や取引先開拓においても、SNSの活用が探られるのではないか。
ここで気がかりなのは、米メタ・プラットフォームズ社が傘下ソーシャルメディア、すなわちフェイスブックやインスタグラムなどで運用してきた第三者によるファクトチェック(事実確認)を、米国について廃止すると先般発表したことである。トランプ氏の米大統領就任を踏まえた動きと言われるが、こうした動きがSNS全体の信頼性を損なうと判断された場合、企業などが活用を控えることにもなりかねない。企業や公的機関を含めた多くの主体が積極的に参加するプラットフォームとなるためには、信頼性や公平性などが担保されることが重要である。外部からの規制は本来そぐわないだろうが、自主的に何らかの規律が保たれるようにしなければ、SNSが経済に与える影響力には限界が生ずる可能性も否定できないだろう。
SNSのユーザーが本当に情報を信頼しているのかと言えば、先の調査で面白い結果が出ている。各メディアに対する信頼度を問う設問である。直近の調査で「インターネット」に関して「全部信頼できる」「大部分信頼できる」を合わせた回答率は28.9%に過ぎず、「テレビ」の60.7%、「新聞」の61.1%を大きく下回っている。さらに、5年前の32.2%からも低下している(いずれも全世代)。最も活用度の高い20代においても、5年前の35.4%から28.1%へと全体以上に信頼度が低下している様子が窺える。決してSNS情報を鵜吞みにしているわけではないことが示唆されるが、逆に言えば3割近い人はかなり信頼しているということになる。最終的には個々人がネットリテラシーを高める必要があるが、社会全体として信頼性向上の工夫が必要になるのは間違いない。
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調査本部
常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰
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