ASEAN最大のグローバルサウス・インドネシアのBRICS加盟が意味することは?

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2025年01月17日

2025年1月、インドネシアが正式にBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカの頭文字から命名された国際会議)に加盟した。BRICSには、2024年1月に4カ国(エジプト、エチオピア、イラン、UAE)が追加加盟(※1)したほか、2024年10月には加盟国に次ぐ「パートナー国」として、13カ国(※2)が認められていた。今回のインドネシアの正式加盟で、同国が13カ国の中で初めて「パートナー国」から格上げされた形となった。そもそもインドネシアは、2023年にロシアや中国等から加盟の打診を受けていたが、ジョコ前大統領がそれを断った経緯がある。BRICSに加盟するメリットを見いだせなかったことが理由である。それではなぜ、インドネシアは今、BRICSへの加盟を決断したのだろうか。

まず、ジョコ前大統領がBRICS加盟を断った2023年当時、インドネシアを取り巻いていた環境を振り返りたい。当時のインドネシアは、インフレ抑制法(IRA)が導入された米国で電気自動車(EV)関連の税制優遇措置を受けることで、EVバッテリーやその製造に使われるニッケルを米国向けに大量に輸出する構想を抱いていた。それを実現するためには、両国の間で自由貿易協定(FTA)を締結する必要があるため、ジョコ前大統領は米国に打診を繰り返していた。しかし、米国はそれに消極的であった。インドネシアのニッケル開発・精練に中国企業が深く関与していることがボトルネックとなったためである。このような交渉が両国の間で進む中、インドネシアが、米国の機嫌を損ねてまでもロシアや中国が主導するBRICSに加盟するメリットはほとんどなかったのだ。

2024年、インドネシアは米国に直接ニッケル等を輸出する方針から転換し、韓国のEVバッテリー製造会社にニッケルを提供することで、韓国企業を経由して米国市場にアクセスする方法を模索し始めていた(※3)。それを可能とするため、インドネシアのニッケル産業への中国の出資比率を引き下げることも辞さない姿勢だった(※4)。しかしそのような目論見は、11月にトランプ氏が次期大統領に当選したことで潰えてしまった。トランプ氏はそもそもIRAに否定的で、IRAの存続自体が危ぶまれることとなったためである。インドネシアが米国にEV用ニッケルやバッテリーを大量に輸出する構想の実現確度は、大きく低下することとなった。

インドネシアがBRICSに正式加盟したのは、そのようなタイミングだった。IRAに基づくEV関連製品の税制優遇の適用がほぼ叶わなくなった今、米国の顔色を窺う必要はなくなったのである。むしろ、「ディール」を重視するトランプ次期大統領と対峙するためには、交渉力を高める後ろ盾が必要となる。それがBRICS加盟という選択だったのだろう。そういった意味で、今回のインドネシアのBRICS加盟は、トランプ氏の当選が新興国の米国離れを招いた一例ともいえるだろう。

(※1)サウジアラビアも加盟の打診を受けていたが、正式加盟を見送っている。
(※2)アルジェリア、インドネシア、ウガンダ、ウズベキスタン、カザフスタン、キューバ、タイ、トルコ、ナイジェリア、ベトナム、ベラルーシ、ボリビア、マレーシア。
(※3)韓国は米国と二国間FTAを締結しているため、IRAに基づく税制優遇が適用される。
(※4)米国政府は、中国、北朝鮮、イラン、ロシアの株主が保有する権益が25%を超える事業体を「懸念される外国の事業体」とし、これらの事業体が供給するEV用素材やバッテリーをIRAに基づく優遇対象から外しているため。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲