コロナ危機と選挙の関係~米欧編~

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2021年02月25日

  • 山崎 加津子

新型コロナウイルス感染症の蔓延がなかったら、昨年11月の米国の大統領選挙でトランプ前大統領が再選されていた可能性はかなり高かっただろうと考える。トランプ政権の政策はさまざまな批判を受けつつも、米国経済の活況と失業率の低下、株高をもたらしており、それを成果として選挙戦を有利に戦っただろう。また、トランプ批判の大きなうねりとなった人種差別に対する抗議行動(Black Lives Matter)があれほどの広がりを見せたのは、コロナ危機で非白人層の経済状況が大幅に悪化したことが背景にあったと考えられる。

一方、新型コロナウイルス感染症の蔓延がなかったら、この2月にイタリアでドラギ前ECB総裁が率いる挙国一致内閣は誕生していなかっただろう。コンテ首相が退陣に追い込まれたあと、総選挙を実施せずに、政治家ではないドラギ氏を首相とする政権が誕生したのは、コロナ危機で深刻な打撃を受けたイタリア経済の立て直しが、総選挙の実施よりも優先されるべきとほとんどの政党が受け入れた結果である(次の総選挙では大幅な議員数削減が予定されているため、失職を回避したい政治家が少なくなかったという事情もあったが)。

このように、経済や社会だけでなく、政治の領域でもコロナ危機はさまざまな影響を及ぼしている。2021年9月26日にはドイツで総選挙が予定されている。4期16年首相を務めたメルケル首相は次の選挙には出馬しないことを表明済みだが、コロナ危機は選挙の行方にどのような影響を及ぼすだろうか。

メルケル首相が率いるCDU(キリスト教民主同盟)/CSU(キリスト教社会同盟)は、前回の2017年9月の連邦議会選挙において得票率32.9%で第1党となったが、その後の世論調査(出所:RTL/n-tv Trendbarometer)では徐々に支持率が低下し、2019年6月には緑の党に抜かれた。若い世代を中心に気候変動対策への支持が急速に高まる中で同年5月に実施されたEU議会選挙で環境政党が躍進を遂げたことが、ドイツ国内での緑の党の支持率上昇にも反映されたとみられるが、長期政権への飽きも指摘されていた。

ただし、CDU/CSUは2カ月ほどで世論調査における支持率1位に返り咲き、2020年3月以降は2位以下を大きく引き離した。きっかけとなったのが新型コロナウイルス感染症の急速な拡大である。過去に例を見ない急速な景気悪化の中、ドイツ政府は従来の財政健全化方針を棚上げにし、大規模な財政出動による企業の資金繰り支援、雇用維持支援に乗り出した。また、メルケル首相はEUの感染症対策でも指導力を発揮し、EU首脳が同年7月に合意したEU復興基金の創設に尽力した。この間にCDU/CSUの支持率は6月の世論調査で40%まで上昇した。

もっとも、ドイツ経済立て直しもまだ道半ばであり、9月の総選挙まで高い支持率を維持できる保証はない。メルケル首相の後任の首相候補を誰にするかもまだ固まっておらず、選挙戦の行方は今後半年間で新型コロナウイルス感染を抑制し、経済復興の道筋を明確にすることができるかどうかにかかっている。

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