「電力自由化」、10年ぶりの進展に期待
2012年04月09日
経済産業省電力システム改革専門委員会において、「電力自由化」に関する議論がスタートした。2003年の電気事業法改正以降、日本の電力自由化の議論はほとんど進んでおらず、およそ10年ぶりの議論再開となる。きっかけは東日本大震災だ。電力不足に直面した日本は、計画停電や電力使用制限といった強制的な手段をとることしかできず、他の電力会社や自家発電の供給力、需要家の調整力を柔軟に引き出すことができなかった。
その一因は、日本の「電力自由化」が実質的に進んでおらず、電力需給逼迫時に、供給を促し需要を抑制するような市場が形成されていなかったことにある。日本の電力自由化は1995年以降段階的に行われてきた。1995年に発電分野の自由化が行われ、2000年には特別高圧受電(使用規模2000kW以上)を対象とした小売分野の自由化がスタート、2005年には小売の対象範囲を高圧受電(使用規模50kW以上)まで拡大した。順当に自由化が行われてきたかのように見えるが、資源エネルギー庁によると2010年度の小売自由化分野における新規参入者(PPS:特定規模電気事業者)の販売規模は3.5%であり、既存の電力会社との間に公平で競争的な市場が形成されてきたとは言い難い(図表)。市場を活性化させるためには、これまで新規参入者の参入障壁とされてきた託送ルール(※1)などを見直すことが必要だろう。その際、送配電分野の中立性を確保するための発電と送配電分野の分離の議論も避けて通れない。さらに、リアルタイムで小口の供給者も参加できる市場の形成や、地域間融通を活発に行うためのインフラ整備も必要となるだろう。併せて、価格インセンティブにより需要側を制御する仕組みづくりも重要だ。そのためには、リアルタイムの料金設定を可能にするスマートメーターなどの整備が求められる。家庭部門まで対象とした電力小売の全面自由化を進めれば、需要側の柔軟性はさらに高まるだろう。
こうした多くの論点がある中、同委員会では、「低廉で安定的な電力供給を実現する、より競争的で開かれた電力市場」を構築することを基本理念とし、「需要サイドの取り組み」、「供給の多様化」、「分散型エネルギーの活用」、「競争の促進と広域化」について順次議論を行う予定である。
震災以降、「電気を選びたい」という需要家の声を多く聞いたが、今後は、購入する電力の電源構成や価格、購入パターンなど選択肢が広がる可能性がある。そのためにも議論の進展に大いに期待したいが、一方で、需要家の選択結果が日本の電力供給構造を形作るという新たな責任が伴うことも我々は認識しておかなければならない。
図表 電力自由化分野における特定規模電気事業者の販売電力の割合(2010年度)
(電力自由化分野における総販売電力量:5,747億kWh)

出所:資源エネルギー庁電力調査統計を基に大和総研作成
(電力自由化分野における総販売電力量:5,747億kWh)

出所:資源エネルギー庁電力調査統計を基に大和総研作成
(※1)電力会社の所有する総配電網を利用する際の、託送料金や条件など
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