消費税増税は子どものためか

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2011年01月04日

  • 原田 泰
財政赤字は将来世代の負担であるから、消費税を増税して一刻も早く赤字を削減しなければならない。子ども手当のようなバラマキで財政赤字を増やすことは一刻も早くやめなければならないという議論がある。本当だろうか。

まず、国債は政府の借金であるが国民の資産であるから、国家にとって債務なのか資産なのか分からないという大問題がある。しかし、これは高名な経済学者が長年論争を続けてきても決着のつかない大問題で、このコラムで簡単に議論できるようなことではない。そこで、国債は将来世代の債務であるとしておこう。

今、消費税を増税し、債務を減らせば確かに将来世代の債務は減少する。しかし、消費税増税は現在の高齢者の福祉に使われ、債務の減少には使われないのではないだろうか。しかも、今まで、高齢者は、実質上、消費税を負担していない。1989年に消費税が導入されたとき、97年に税率引上げがあったとき、消費税による物価上昇はインフレと同じとされて、その分だけ年金支給額が引き上げられている。今後、消費税をさらに引き上げるときには、消費税による物価上昇分については年金の物価スライド条項を発動しないと決めておかなければならない。ところが、消費税論議のなかで、この問題が議論されている記事を私は見たことがない。将来世代のことなど、誰も真面目に考えていないのだ。

一方、子ども手当で赤字を作るのはどうだろうか。子ども手当でおもちゃを買ってもらって楽しい思い出を作ったが、後から国の借金を返さなければならないというほうが、今の高齢者の福祉に使うより、まだマシではないだろうか。あるいは、子ども手当でより高い教育を受けることが可能になり、より多くの所得を稼ぐことが可能になって、後から国の借金を返すほうがまだマシではないだろうか。

親が子どものために使わず、自分の楽しみにために使ってしまったらどうだろうか。そのときは、国ではなく親を恨んでもらうより仕方がない。そんな親がいないようにと国がきちんとした政策を行うべきだという議論もあるが、現在、国がしていることは若い世代の負担によって、高齢者の福祉を維持することだ。国がきちんとすることには期待できない。

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