技術提携先として存在感を増すバイオベンチャー

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2010年09月13日

  • 渡邉 愛
国内のバイオベンチャーと大手製薬企業との提携が増えつつある。これまで国内の製薬企業による提携やM&Aの対象は欧米のバイオベンチャーが中心であったが、2008年頃から国内のバイオベンチャーとの提携事例が目立つようになってきた。

2010年に入ってからも提携に関するニュースが複数報じられている。3月にはアンジェスMGが塩野義製薬と核酸医薬の共同開発に関する基本合意書を締結。7月にはイミュノフロンティアが第一三共と治療用がんワクチンに関する独占的評価及び交渉に関する契約を締結。業務提携を進めることで、第一三共から資本参加を受けたことも発表した。8月にはUMNファーマがアステラス製薬とインフルエンザワクチンに関する共同開発及び独占的販売に関する契約を締結した。

提携が増加した理由は主に3つある。1つ目はバイオベンチャーにおける開発ステージの進展である。日本ではゲノムブームを背景に2000年前後に多くのバイオベンチャーが設立された。その後5~10年の開発期間を経て、例えば医薬品候補シーズの開発ステージを非臨床試験から臨床試験段階へ進めるなど、自社技術の優位性や付加価値を示すデータを蓄積し製薬企業との交渉力を高めた企業が増えている。

2つ目は製薬企業が外部からの技術導入を積極化していることである。大手製薬企業は2010年前後における大型医薬品の特許失効、いわゆる「2010年問題」を抱えている。これまで各社の売上を牽引してきた主力薬の特許が切れ、後発薬メーカーにより同じ有効成分を含む安価な後発医薬品が販売されれば、収益の悪化は免れない。これを補うため、多くの製薬企業が外部からの新薬シーズや技術の導入に活発に取り組んでいる。製薬企業の研究開発費は増加傾向にある一方、新薬の成功(上市)確率は低下傾向にある。加えて安全性などの承認審査は厳格化される方向に進んでいる。このような環境下において、外部からの新薬シーズや新技術の導入は開発コストの軽減や他社との製品差別化を図るうえで重要性が増している。

3つ目は周辺産業からの医療・ライフサイエンス領域への参入である。既存事業の伸び悩みなどを理由に収益多角化の一環として医療関連事業に注力する企業が出てきている。

2010年8月30日に発表された、富士フイルムによるジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、J-TEC)の約40億円の第三者割当増資の引き受けはこの3つ目のケースに相当する。発行期日は2010年10月29日で、これが実現すれば富士フイルムはJ-TECの発行株式の41.3%を所有する筆頭株主となる。提携効果への期待感から発表後J-TECの株価は大きく上昇した。

J-TECは1999年設立のベンチャー企業。組織工学技術を強みとし、自家培養表皮などの再生医療製品の研究開発を行う。2007年12月にジャスダック証券取引所NEO市場(※1)に株式を上場。同社が開発した自家培養表皮「ジェイス」は重症熱傷を適応として2007年10月に厚生労働省より製造承認を取得し、国内第一号の再生医療製品として注目を集めた。

J-TECの2010年3月期の売上高は約2億円、経常損失は約10億円。研究開発投資が先行し収支は赤字が続いている。2010年3月末における現預金残高は約14億円であり、財務基盤を強化する必要があった。

一方、富士フイルムは写真フィルム事業の縮小から経営多角化を進めおり、重点領域の一つである医療・ライフサイエンス事業において積極的な設備投資や研究開発投資、M&Aを展開してきた。具体的には、2006年の富士フイルムRIファーマの100%子会社化、2008年の富山化学工業の買収、2009年のペルセウスプロテオミクスの子会社化、2009年の富士フイルム医薬品研究所(がんや再生医療分野の研究)の設立、2010年の富士フイルムファーマ(後発医薬品の販売)の設立、などである。

富士フイルムには写真事業で培ったコラーゲンなどの高分子素材の技術蓄積があり、これを活用して生体適合性に優れたコラーゲンペプチドを開発し、再生医療における「足場」素材に応用する研究を進めていた。J-TECの再生医療技術と融合させることで、再生医療ビジネスの実現に向けた開発を加速させる狙いがあると見られる。

今回の提携はJ-TECにとって資金面のみならず今後の共同開発や販売、国際展開など業務面でも相乗効果が期待できる、非常に有意義なものといえよう。

製薬企業などが積極的に外部から技術を導入する傾向は今後も続くことが予想される。このチャンスを活かし製薬企業との提携を実現できるバイオベンチャーがどの程度出てくるのか、今後の動向が注目される。

(※1)現・大阪証券取引所(ジャスダックNEO市場)

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