預金から投資へ ~ドイツの場合~
2007年01月24日
「預金から投資へ」の掛け声のもと、日本の個人金融資産の資産構成の偏りを変えていこうとする動きがある。そこで良く参照されるのがドイツの例である。米国や英国のように、ずっと以前から個人金融資産において株式や投信、年金・保険商品の比重が高い国では、比較してもあまり意味がない。それよりも、もともと預金の比率が高かった国で、90年代以降、株式の比重が上昇してきたドイツが格好の前例なのであろう。
しかし、実のところ、ドイツの個人金融資産に占める株式の割合は90年代後半に目立って拡大したものの、00年の13.0%をピークにその後は大きく低下。03年以降は6%台でほぼ横ばい推移となっている。個人金融資産統計は時価評価されるため、ネットバブル崩壊後の株価急落が、株式資産の比重を低下させる主因となったのは確かである。けれども03年3月を底として株価は総じて上昇傾向にあるにも拘らず、株式資産の割合はほとんど変化していない。フローの統計に注目すれば、株式投資は01年から05年まで5年連続で資金流出となっている。06年分の個人金融資産統計は今年6月にならないと明らかにならない。ただ、ドイツ株式研究所が年2回公表している個人株主動向調査によれば、06年の個人株主数は00年以降の減少傾向が継続したことが確認された。インターネットバブルで株価が高騰した00年のドイツの個人株主数は621万人(14歳以上人口の9.7%)と推計されるが、06年は424万人(同6.5%)に減少してしまった。
個人投資家が株式投資に消極的な理由は、(1)00年のネットバブル崩壊後の株価急落のネガティブな印象がいまだに強い、(2)特に「国民株」として売り出されたドイツ・テレコムの株価の戻りが鈍いことに加え、(3)ここ数年、公的年金や失業手当などの社会保障制度改革で家計の実質的な負担が増し、さらに雇用市場の冷え込みで失業懸念が強く、家計の安全資産志向が高かったことが挙げられる。06年のドイツ経済は6年ぶりの高成長となって、失業率が顕著に低下。個人消費も久々に持ち直しの動きを見せているのだが、この変化はまだ家計の投資行動には表れていないと見られる。しかもタイミングの悪いことに、06年7月にドイツ政府が発表した08年税制改革案では、現在は1年以上保有していれば非課税である株式投資のキャピタルゲインを、09年以降25%の税率で課税する案が盛り込まれた。この措置は法人税率を引き下げるための代替財源として導入されようとしているのだが、ドイツ政府は個人の株式投資奨励という90年代に推進していた方針をどこかになくしてきてしまったようである。
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