負ければ地獄、勝っても地獄 ~ トランプ大統領に下される審判

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2026年09月28日

6月に前回のコラムを執筆した時点(※1)では、トランプ大統領の「傍若無人」が止まらないと書いた。それから3か月あまりが経過したが、状況は変わらない。ホルムズ海峡の航行は阻害されたままで、米国内のガソリン価格は高止まりし、米国の消費者のアフォーダビリティ(生活のしやすさ)は損なわれている。

そうした中で中間選挙の年としては初めて共和党大会が開催され、トランプ大統領は支持者に向けて、“投票しなければ地獄に落ちる”(※2)、つまり共和党が負ければ地獄だと訴える一方、勝てば「トランプ配当」として成人の米国市民全員に5,000ドルを支給するとアピールした(※3)。古今東西、国民の負担軽減やばらまきを約束することは選挙で手っ取り早く支持を集める常套手段である。

今回のばらまきは総額1兆ドルを優に超える規模だが、肝心の財源は示されていない。関税収入が念頭にあるのだろうが、既に他の減税財源に充当されており、二重取りは困難である。もっとも、政府債務が膨張するためか、あるいはその実現性が疑われているためか、有権者の6割超(共和党支持者でさえ4割)が「トランプ配当」に反対しており、大統領支持率は3割台で低迷したままである(※4)。

そして、FRBは、高インフレを理由にトランプ大統領が送り込んだメンバーも含めて全会一致で3年2か月ぶりの利上げに踏み切った。まさに「飼い犬に手を噛まれる」格好だが、トランプ大統領は、“米国は世界で最も信用力が高いのだから金利は1%以下であるべきだ、直ちに金利を下げろ”と主張する(※5)。しかし、足元の高インフレは、他ならぬ自らの関税政策やイラン戦争で生じたエネルギー高が大きく影響しており、自業自得といわざるを得ない。

にもかかわらず、トランプ大統領はカナダに新たな高関税をかけることに執心するほか、FRBが利下げしなければ、米国が貿易赤字を抱える国々との取引、つまり貿易を停止するといったように、いったい誰を脅しているのか分からない投稿(※6)まで飛び出していた。当然ながら輸入がストップすれば関税収入も失われる。オンタリオ湖を「アメリカ湖」に改称する大統領令に署名し、ホルムズ海峡は「トランプ海峡」と呼ぶべきと発言するなどはかわいいものに思われる。

仮に共和党が下院の多数を失えば、ねじれ議会の下で政策運営は厳しさを増す。トランプ1.0の反省を踏まえて、民主党が直ちに弾劾訴追に動くとは限らず、2028年の大統領選挙を視野に入れて、ボディーブローのようにトランプ・共和党をじわじわと攻めていくだろう。

では、予想に反して、トランプ共和党が上下両院で過半数を維持したらどうなるだろうか。最後の2年間、信任を得たトランプ大統領の傍若無人さに拍車がかかり、(万人というよりも自分の支持者が納得する)レガシーを残すことに注力しよう。例えば、世界各地を“アメリカ○○”、“トランプ○○”と勝手に命名したり、国内では、ラシュモア山に自らの横顔を刻みたいとして、実現に向けた計画をぶち上げたりするかもしれない(※7)。

経済的には、トランプ・チルドレンが幅を利かせる議会に対して、自ら口にした「トランプ配当」の実現を働きかけるだろう。巨額の請求書によってインフレや長期金利の上昇圧力が一段と高まったとしても、利下げを強く要求してウォーシュFRB議長にも批判の矛先を向けるのは時間の問題とみられる。

それから、自分の後継者を指名し当選させることで、退任後も影響力を残そうと考えるだろう。2028年の選挙で共和党が大統領・議会支配を失えば、元も子もなくなる。現役大統領という立場ゆえに大目に見られることはなくなり、民主党大統領による恩赦は期待できない。

一方、トランプ1.0・2.0を通じた言動・行動を踏まえると、今後2年間も米国内外の分断を修復するような動きは期待しづらい。岩盤支持層を失うような行動は2028年の敗北の可能性を高め、トランプ大統領自身の、温かい食事と快適な寝床という豊かな老後を損ねるかもしれないからだ。このように、トランプ大統領にとって「負ければ地獄」だが、彼以外にとっては「勝っても地獄」と言うべきか。

(※7)サウスダコタ州にあるラシュモア山国立公園の岩山に、初代ワシントン、第3代ジェファーソン、第26代T.ルーズベルト、第16代リンカーンという歴代大統領4人の顔が彫られている。トランプ大統領は以前から5人目となる希望を公言し、2026年7月3日には、建国250周年行事の一環で現地訪問した。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也