トランプ大統領、飼い犬に手を噛まれる

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2026年03月04日

トランプ大統領は、周到な準備の下での電光石火の攻撃により、1月のベネズエラに続いて、2月末にはイランの最高指導者を排除した。グリーンランドを巡る欧州との摩擦も含め、対外的には対立を辞さない強硬な姿勢が目立つ。一方、国内に目を転じると、政権運営は必ずしも順調とは言えず、2026年に入っても支持率は低迷したままである。

2月20日、連邦最高裁判所は、IEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠とした相互関税導入等について、関税を課す権限が大統領には与えられていないとして、関税措置を違法と判断した。一審・二審に続く判断であり、保守派が3分の2を占める最高裁において、最高裁長官に加え、トランプ1.0で指名された判事2人がトランプ大統領の意に副わない考えを示した。まさに飼い犬に手を噛まれた状況に陥ったトランプ大統領は、記者会見で当該判事らを激しく罵った。

判決を受けて、早速、多くの企業が米政府に対し、関税の還付を求める動きを見せているが、トランプ大統領がすぐに応じるかは不透明だ。IEEPAに基づく関税は、一連のトランプ関税の約6割に相当する歳入をもたらしており、既にその財源を当て込んだ政策も打ち出されていた。それ故、トランプ政権はその穴埋めを考えなければならず、即座に1974年通商法122条に基づく追加関税を発動した。また、相互関税率を引き下げる二国間の交渉過程で取りまとめた対米投資計画については、そもそもの前提が崩れたにもかかわらず、各国に着実な履行を求めている。

一方、関税コスト負担を巡っては、海外輸出企業の負担は1割程度にとどまり、大半を米国の企業や消費者が負っているという分析を、NY連銀やCBO(議会予算局)などが相次いで公表した。海外企業がコストを負担するというトランプ大統領の主張とは異なる結果である。思い通りにならない状況や意に反する発言・行動に対しては、敵対心を剝き出しにするのが、トランプ大統領に限らず、その部下にも共通のリアクションである。実際、ハセットNEC(国家経済会議)委員長はNY連銀の分析に噛みつき、分析担当者らを厳しく批判した。側にいてほしいというトランプ大統領の意向を忠実に実行しているとみられる。

相変わらず、トランプ大統領は金利を下げろと要求しているが、25年9月の就任以来、トランプ2.0の代弁者として0.5%ptの大幅利下げを主張してきたミランFRB理事は、26年1月のFOMCでは0.25%ptの利下げ要求にとどめた。同様に25年7月以降0.25%ptの利下げを求め続けてきたウォラーFRB理事(トランプ1.0で就任)は、雇用環境が堅調であれば次回(3月)は据え置きの可能性にも言及しており、金融政策運営においてもトランプ大統領の意に副わない雰囲気が出てきた。

イラン攻撃で中東情勢の緊迫が長期化すれば、エネルギー供給は滞り、原油などの価格が上昇する。そして、エネルギー価格が上昇してインフレ圧力が高まると、Fedは利下げに慎重になるだろうし、Affordability(手頃な価格)を求める国民世論の反発を招こう。もともとトランプ大統領の支持層は内向きで、過度な対外的軍事関与を忌避する傾向があり、今回のイラン攻撃の決断を手放しで歓迎しているか疑問だ。さらに、国内で注目されているエプスタイン文書を巡っても、支持層の間で政権に厳しい見方があるとされる。

11月の中間選挙まで残り8か月。2018年の中間選挙では、民主党が下院で過半数を獲得し、大統領弾劾訴追へと発展した経緯がある。仮に岩盤支持層に亀裂が生じれば、共和党と民主党の議席数が僅差である下院選の行方は一段と不透明となり、トランプ1.0における悪夢が再現される可能性も否定できない。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也