「猪突猛進・暴走トランプは急に止まれない ~ 自分は正しいという強い信念」
2025年03月31日
当選を決めてから140日余り、正式に大統領に就任して70日弱、トランプ大統領の行動力を見ていると、周囲に適当なブレーキ役は見当たらず、むしろ燃料をくべるイエスマンばかりのようだ。もっとも、1期目・浪人時代を通じて自らに示された忠誠心や資金援助が、人材登用の判断基準と考えれば不思議ではない。トランプ大統領は就任演説の中で、“米国は再び成長する国家となる。富を増やし、領土を拡大し、都市を築き、期待を高める”と述べており、これまでの行動は、この文脈のなかで首尾一貫しているともいえよう。
矢継ぎ早の大統領令に代表される猪突猛進さは、国内外で様々な摩擦を引き起こしている。後述するように、その多くは事前に想定されたメニューだが、個人的にサプライズだったのはカナダ叩きの強烈さと、それに比べて穏当に見える中国への圧力、さらにグリーンランドへの強い執着だろう。トランプ摩擦による副次的な反応としては、ドイツが憲法にあたる基本法を改正して財政規律を守る債務ブレーキを緩和し、国防費増額に踏み出したことなどが挙げられる。
一方、大統領就任以降の株式市場の推移を見ると、執筆時点(3月26日)の株価(S&P500)は、就任日直前の水準を5%近く下回っている。これは、同じ期間で4%ほど上昇していたトランプ1期目よりも悪いパフォーマンスであり、トランプ大統領の行動力(政策)は市場から評価されているとはいえまい。足もとの消費者マインド(特に先行きの見通し)は大きく悪化し、インフレ期待も上昇傾向を示す。
要因の一つがトランプ関税である点に異論はないだろう。関税政策は1期目でも実践したトランプ大統領の“一丁目一番地”な存在であり、成功体験に基づいている。実際、2期目でも、高額な関税をふっ掛けて相手から譲歩を引き出している。ディールと言えば聞こえはいいが、あまりに脅迫の度が過ぎると相手(例えば、カナダ)の強い反発を招き、友人を失い、世界の中で孤立していく。
関税率の引き上げや対象範囲の拡大など内容が強化されるほど、短期的には、輸入インフレを通じてインフレ圧力が高まりやすくなる一方、中長期的には、価格上昇が個人消費を抑制し米景気を冷やすというデフレ環境の醸成が見込まれる。トランプ政権の中には、輸入から国産に代替されるので追加関税の影響は小さいという考え方もあるが、少なくとも企業や消費者が購入する財の価格が従来よりも上昇することは避けられない。この考え方は国産品と輸入品の品質がほぼ同じという強い前提を置いており、すべての原材料・財を国内で調達できない現実を踏まえると、トランプ政権が期待するほど輸入品から国産品への切り替えはスムーズにいかないだろう。そもそも、国内で同じ品質の財を安価で調達できるならば、巨額な貿易赤字にはならないはずだ。
他方、スピーディーな決断の裏で笑い話のような事態も生じている。例えば、大幅な人員削減の一環で核関連の重要なポジションの職員まで解雇してしまい、慌てて呼び戻そうとするも当初は連絡が取れず。また、コロナ禍で拡大した在宅勤務からオフィスへの出勤を命じたものの、職員全員の十分なスペース(机や駐車場等)がなく、ネット環境も整っていないために混乱が生じ、むしろ業務効率が低下したという。
トランプ大統領を取り巻く状況は日々目まぐるしく変化しており、掲載時には陳腐化しているかもしれない。以下、過去に執筆したコラム抜粋を再掲して締め括ることをご容赦願いたい(※1)(※2)(※3)(※4)。
では、仮にトランプ前大統領が再登板となったら、どのような変化が予想されるだろうか。現役時代の基本姿勢は、(中略)前のオバマ政権のレガシーを消し去ることだった。再び同じスタイルを踏襲するならば、ウクライナ問題も例外ではないだろう。事態の長期化とともに共和党内の支援疲れが強まると予想される中、トランプ前大統領の登場によって、ウクライナ侵攻に対する米国の態度は大きく変わる恐れがある。最大の支援国の方針転換は、西側のウクライナ支援体制を瓦解させ、米欧の対立を引き起こすだろう。
バイデン政権下でも進められた、製造業の米国内への回帰やサプライチェーンの再構築を促す動きは変わらないと予想される。その裏返しが中国への強硬な姿勢であり、バイデン政権も緩めなかった。ただ、トランプ前大統領の場合、西側諸国との摩擦も厭わない分だけ厄介だ。やはり、トランプ再登板のリスクは世界経済の分断を進め混乱させる要因となるだろう。
個別の政策の実現性は別にして、トランプ前大統領の主張は、総じてインフレを助長する内容に他ならない。その最たる例が通商政策であり、自らタリフマン(Tariff Man)と名乗る前大統領は、米国が貿易赤字を計上する相手国に再び関税引き上げを突き付けるだろう。特に、中国に対してはこれまで以上に厳しい姿勢で臨んでいる。(中略)一貫性がなく、どこまで実行するつもりか不明だが、トランプ1期目の実績を踏まえると、絵空事と全く無視はできない。最悪に備えたくなるのが心情だ。(中略)自分に都合よく解釈し行動するのがこれまでのパターンであり、急に国際協調を重視する人物に生まれ変わるとは想像し難い。
現憲法上3選が禁止されて次がないトランプ氏にとっては、上下両院の多数派を握っている最初の2年間、つまり2026年11月の中間選挙までの2年間が、やりたいことを強引にでも進めるチャンスである。一般的に中間選挙は現職大統領に厳しい判断が示される傾向にあり、仮にねじれ議会になれば政策実現度は著しく低下しよう。トランプ氏も一期目に経験済みのはずだ。
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政策調査部
政策調査部長 近藤 智也