信用収縮の行方の先に、より大きな「爆弾」が控えている

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2023年06月26日

米国の債務上限問題は2025年1月1日まで上限適用が見送られたことから、2024年11月の大統領選挙までに同問題で議会が機能不全になることは回避された。予算不成立によって、一時的な連邦政府機関の閉鎖リスクはあるものの、過去にも経験済みであり、デフォルトリスクに比べれば経済に与える影響は限定的だろう。それよりも、信用収縮が拡大するリスク、さらには大統領選挙でトランプ前大統領が復活する可能性の方が、より大きなインパクトとなろう。リーマン・ショックの場合、ショック前の水準に回復するのに約3年を要したが、大統領の任期は4年間である。

過去に再選に失敗した現職大統領は11人いるが、みたび目指すことは法律上問題なく、19世紀のクリーブランド大統領(第22代、第24代)のように、唯一だが、返り咲いた例もある。トランプ前大統領は2022年11月、他に先駆けて出馬表明し、全米で選挙活動を展開している。その後、フロリダ州のデサンティス知事やペンス前副大統領等、多くの候補者が立候補を表明したが、直近の世論調査を見ると、トランプ前大統領は共和党内の約50%の支持を集め、2位以下の候補者にダブルスコアの大差をつけている。共和党内の予備選・党員集会が始まるまで約7カ月間あるが、トランプ前大統領が最終的に共和党の大統領候補になる公算が大きい。現職のバイデン大統領との対決となれば、現時点の世論調査では、ほぼ互角の支持を集めている。

もっとも、トランプ前大統領が退任後も様々なトラブルを抱えているのは周知の事実である。例えば、支持者らに連邦議会議事堂襲撃を扇動したとして弾劾裁判にかけられたり、最近では、機密文書問題を巡って連邦大陪審に起訴されたりしている。普通に考えれば大きな打撃のはずだが、トランプ前大統領の場合はむしろ逆だ。政治的に歪められて不当な扱いを受けていると主張し、反発のエネルギーに変えている。実際に厳しい判決が出れば世論に影響するだろうが、選挙まで残された時間を考えれば、フェイクだ、信じるなと呼びかけて、自らの支持基盤を固める材料に利用するだろう。それに、これ以上新たなスキャンダルが表面化しても驚かれないだろうし、身内に好かれて敵に嫌われるというポジションは大統領時代から変わっていない。普通なら2020年の敗北経験を踏まえて中間層への支持拡大を目指すようイメージチェンジを図るものだが、一切、スタイルを変えようとしていない(そもそも、不当に勝利が奪われたと思っているのだから無理もない)。

では、仮にトランプ前大統領が再登板となったら、どのような変化が予想されるだろうか。現役時代の基本姿勢は、オバマケア撤廃や不法移民対策見直し、TPP離脱、環境規制緩和・パリ協定離脱等、前のオバマ政権のレガシーを消し去ることだった。再び同じスタイルを踏襲するならば、ウクライナ問題も例外ではないだろう。事態の長期化とともに共和党内の支援疲れが強まると予想される中、トランプ前大統領の登場によって、ウクライナ侵攻に対する米国の態度は大きく変わる恐れがある。最大の支援国の方針転換は、西側のウクライナ支援体制を瓦解させ、米欧の対立を引き起こすだろう。また、トランプ再選の可能性が見えてくれば、ロシアのプーチン大統領は引き延ばしを目論み、トランプ前大統領の主張をサポートするような情報戦略を展開することも予想される。逆に、ウクライナを支援する側からすると、トランプ就任前(2024年末)までに一定の進展が得られるように、支援を急がないといけないかもしれない。やはり、トランプ再登板のリスクに備える必要がありそうだ。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也