“選挙”が、2024年のグローバルリスクの一つであるという皮肉

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2023年12月25日

本来、選挙というものは民主主義が成り立つための重要なプロセスであり、2024年にかけて、世界中で議会選挙や大統領選挙が予定されている。2023年からの傾向として、左右に関係なく、現政権に対して国民の不満が高まっており、ポピュリズムが総じて支持を集めている。米中対立の激化が世界経済の分断を進め、さらに、ロシアのウクライナ侵攻を契機に安全保障面の対立に拍車がかかり、直近の中東情勢の緊迫化でも世界の分断が浮き彫りになっている。民意を受けて誕生した政権が先行きの不透明さが増す公約を実現しようとするならば、周辺国と摩擦が生じ、分断を深めるリスクになろう。

2024年に予定されている選挙スケジュールを見ると、先進国から新興国まで広範囲で実施され、世界GDPの8割以上を占めるG20のうち9つの国・地域に及ぶ。それだけ、選挙結果が経済に与えるインパクトも大きくなろう。

1月早々には、中国とその他周辺域の地政学リスクを高めるとみられる台湾の総統選挙が予定されている。2月にはインドネシアの大統領選挙があり、3月にはウクライナ侵攻の長期化も辞さないロシアのプーチン大統領が通算5期目を目指して選挙に臨む。また、BRICSの一員でもありグローバルサウスの中心的な役割を担おうとするインドの総選挙が4~5月にかけて予定されている。6月にはEUで欧州議会選挙があり、2022年以降の右派の勢力拡大が継続するか注目されよう。

そして、11月初めには、2024年最大のイベントである米国大統領選挙が控えている。世界の分断の象徴である、トランプ前大統領がカムバックを目論んでおり、バイデン大統領との対決となれば、4年前の再現だ。ただ、この新鮮味のない対決には、米国民の多くが閉塞感を覚えているとみられ、10月に民主党から無所属に転じたロバート・ケネディ・ジュニア氏(ケネディ元大統領の甥)のような第3の候補者が支持を広げれば、争いを複雑にする可能性が高い。例えば、2000年の大統領選挙では、僅差故に選挙結果の判断が連邦最高裁まで持ち込まれたが、ラルフ・ネーダー氏が3%弱の得票を得たことが民主党ゴア候補の敗因の一つとされる。また、1992年の選挙では、ロス・ペロー氏が第三勢力として約19%の得票を獲得し、共和党のブッシュ大統領の再選を阻んだとみられる。

半年前のコラムでは(※1)、トランプ前大統領が復活する可能性、それがもたらすインパクトの大きさに言及した。半年経っても、共和党から新たな有力候補者は登場せず(逆に、ペンス前副大統領等は選挙戦から撤退)、トランプ前大統領は共和党内の約6割の支持を集め、他を大きく引き離している。年明け1月半ばのアイオワ州から共和党内の予備選・党員集会が始まるが、現時点では、トランプ前大統領が最終的に共和党の大統領候補となる公算が大きい。また、世論調査によると、バイデン大統領の支持率は低迷したままであり、本選でカギを握る州において現職を上回る支持率のトランプ前大統領が、米国史上二人目となる返り咲きを実現するかもしれない(過去には、19世紀のクリーブランド大統領のみ)。

では、返り咲いたトランプ前大統領はどうするだろうか。残念ながら、彼が心を入れ替えて国際協調を重視する姿勢に転向する可能性に賭けるよりも、既視感の強い政策を繰り返すとみる方がオッズは圧倒的に低いだろう。現役時代の基本姿勢は前政権のレガシーを消し去ることだった。同じスタイルを踏襲すると、ウクライナ問題も例外ではなく、支援疲れが強まっている状況を踏まえてトランプ前大統領は優先順位を下げよう。最大の支援国の方針転換は、西側のウクライナ支援体制を瓦解させ、米欧の対立を引き起こす恐れがある。

一方、バイデン政権下でも進められた、製造業の米国内への回帰やサプライチェーンの再構築を促す動きは変わらないと予想される。その裏返しが中国への強硬な姿勢であり、バイデン政権も緩めなかった。ただ、トランプ前大統領の場合、西側諸国との摩擦も厭わない分だけ厄介だ。やはり、トランプ再登板のリスクは世界経済の分断を進め混乱させる要因となるだろう。

(※1)近藤智也「信用収縮の行方の先に、より大きな『爆弾』が控えている」大和総研コラム(2023年6月26日)

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也