「外国人優遇」は本当か?データで見る国民健康保険・国民年金の実態
2025年07月25日
参院選で外国人問題が争点として注目された。医療のタダ乗り、年金保険料未納などの懸念が指摘され、外国人が優遇されているとの主張が広がり、外国人の健康保険・年金を別枠にすべきだとする主張も見られた。
外国人の国民健康保険(国保)・国民年金の加入資格はどうなっているだろうか。日本での在留期間が3カ月を超える外国人は、原則、国保・国民年金に加入しなければならない(※1)。言い換えれば、日本での滞在期間が3カ月以内である観光客や、治療を受けることを目的に来日する外国人は、国保・国民年金に加入することはできず、例えば医療費を自己負担することになる。
たしかに、国保の保険料納付率(2024年4月~12月)を見ると、外国人は63%と全体の93%より低い。ただし、国保の医療費に占める外国人の比率は1.39%(2023年3月~2024年2月)であり、国保の加入者数に占める外国人比率4.0%(2023年3月)よりも低い。この要因は、主に年齢構成の違いによるものである。外国人の加入者には若い人が多いので、医療費は少ない傾向があり、保険料の納付によって医療保険制度を支える側であることが実態だ。
また、国民年金の保険料納付率(2021年実績)も、外国人は43.4%で全体の納付率83.1%に比べて低い。未納者は将来的に低年金または無年金となり、生活保護の対象になると懸念する声もある。ただし、受給権取得に至らずに帰国する外国人も少なくないし、外国人の大半は厚生年金に加入しており給与天引きの対象として強制徴収されている(※2)。
以上を踏まえると、医療、年金などで外国人が優遇されているとの主張はあたらないだろう。
政府が2025年7月15日に内閣官房に「外国人との秩序ある共生社会推進室」を設置したことには重要な意味があると思う。内閣官房には省庁横断の問題に取り組む役割があるので、当該部署が外国人問題を取り扱う司令塔として、省庁の枠を超えた連携の取り組みに期待できよう。従来、出入国在留管理庁を擁する法務省が外国人問題の取りまとめ役だったが、厚生労働省が所管する社会保障など、他省庁の所管する領域には取り組みにくかった。
また、この部署名は2025年6月の経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)で掲げられた「外国人との秩序ある共生社会の実現」から来ている。骨太方針の具体的な項目には「社会保障制度等の適正化」や「出入国在留管理の一層の適正化」などが掲げられているので、当面は「秩序ある」に焦点を当て、保険料未納や医療費未払い、不法滞在などの外国人に関連する諸問題の解決を目指すのだろう。2025年初における日本の人口に占める外国人比率は約3%に達した。絶対数が増えており、社会保障の信認維持のためにも力を入れて取り組むべき時期に来ている。外国人対応は言葉の問題もあり、納付率を上げるハードルは高いが、必要なコストをかけて対応するべきだ。参院選を機に注目を集めたことで、外国人の受け入れ態勢を整備すれば、長期的には、「共生社会の実現」に資すると期待している。
(※1)例外は、職場の健康保険に加入する雇用者や、外国政府の大使として日本で働く「外交」など。なお、国民年金は20歳以上60歳未満の日本国内居住者が対象。
(※2)年金を受け取るために必要な納付期間は10年間。また、帰国した時に受領できる脱退一時金の仕組みもあるが、最大でも払い込んだ保険料の半額までしか支給されない。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
シニアエコノミスト 吉田 亮平
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