選挙イヤー2024年を振り返る ~トランプ2.0への備えは十分か?~

RSS

2024年12月13日

2024年は世界的に選挙イヤーといわれ、先進国から新興国まで広範囲で実施され、世界GDPの8割以上を占めるG20のうち11の国・地域に及んだ。それだけ、国政レベルの選挙が政治・経済に与えるインパクトも大きかった。

これらの選挙を総括すると、総じて、現職・政権与党に厳しい結果だった。イギリスのように14年ぶりの政権交代に至ったほか、与党が過半数割れとなった例も多い。少数与党政権として予算案が通らない袋小路に陥った結果、12月初め、フランスでは内閣不信任案が可決されて、マクロン大統領は厳しい立場に追い込まれている。また、4月の総選挙で与党が大敗した韓国の尹大統領は、非常戒厳宣布という極端な手段に訴えたものの、完全に失敗し、大統領任期半ばにして実質的に権力を失った状態である。日本でも、10月に石破首相が就任早々に解散総選挙に踏み切ったが、今後は30年ぶりの少数与党で厳しい政権運営が予想される。

2024年最大の政治イベントであった米大統領選挙もその例に漏れず、現職・与党の民主党に厳しい結果となり、共和党大統領候補であるトランプ氏が第47代大統領として返り咲くことが決まった。精彩を欠く現職大統領を見限り、投票日まで残り約3か月半という異例のタイミングで候補者を代えた民主党が自滅した側面もあり(後任候補のハリス副大統領の支持率は一時的に盛り上がったが、現職批判は避けられず)、トランプ氏が激戦といわれたスイングステートすべてで勝利し、全米の総得票数でも上回った(8年前はヒラリー氏よりも約290万票少なかった)。また、同時に実施された議会選挙では、下院に加えて上院も共和党が制した。そのため、トランプ氏が望む人事が上院で承認されやすくなる。フリーハンドを与えられたと言ってもよい。

トランプ氏は、前回オバマ政権のレガシーを消し去ったように、今回もバイデン政権の施策を覆すことから始めるだろう。現憲法上3選が禁止されて次がないトランプ氏にとっては、上下両院の多数派を握っている最初の2年間、つまり2026年11月の中間選挙までの2年間が、やりたいことを強引にでも進めるチャンスである。一般的に中間選挙は現職大統領に厳しい判断が示される傾向にあり、仮にねじれ議会になれば政策実現度は著しく低下しよう。トランプ氏も一期目に経験済みのはずだ。トランプ氏とともに選挙を勝ち上がってきた下院議員の任期は2年で、全員が中間選挙の洗礼を受ける。ある意味、トランプ氏と一蓮托生である。

トランプ氏の手足となる閣僚候補や高官の顔ぶれが、当選から20日余り、感謝祭前に一通り出揃った。予想外の勝利となった一期目に比べると、用意周到さが窺われる。もっとも、今回指名された候補者の中には、その適性に与党議員からも疑問を持たれている人物もおり、年明けからの上院における承認手続きが順調に進むかは不透明である。事前検査が不十分なのか、現時点で既に大統領継承順位第7位の司法長官候補が指名辞退に追い込まれ(他に麻薬取締局トップ候補も)、第6位の国防長官候補も逆風に晒されている。

一方、経済・通商関連については、対中強硬派のほか、ウォール街の投資家や規制緩和志向の人材が登用され、市場の安心につながっているとみられる。実際、トランプ氏当選以降、米国の株価は5%以上上昇し、消費者のマインドも共和党支持者を中心に改善する(例えば、11月のNY連銀の消費者調査によると、一年先の暮らし向きがよくなるという割合が20年2月以来の高さに上昇)など、市場の期待が高まっている。

トランプ政権一期目当初の閣僚・高官には、過去の共和党政権経験者や軍人、実業家、身内などが目立ったが、前半の2年間で多くの者が去ってしまった。そのトラウマの反動か、今回の人事で指摘される特徴の一つが、一期目や浪人時代を通じて、トランプ氏に対して知恵や資金の面で忠誠を尽くしてきた人々の存在である。また、下院議員(前職や元職を含めて)からの登用も多い印象がある。ただ、下院の選挙結果が共和党220議席、民主党215議席と選挙前よりも拮抗するにもかかわらず、共和党の現職議員を指名することは(当該議員が辞職する必要があるため)リスクがあるように思われる。年明け早々に、司法長官候補だった議員のほか、国連大使候補や大統領補佐官(国家安全保障担当)、計3名の空席が生じると見込まれる。いずれ補選が行われて議席差が戻るとはいえ(該当する選挙区は共和党の地盤)、それまでは下院共和党は綱渡りの運営を余儀なくされるだろう。従って、大統領令ではなく、法案を通過させようとしたら、トランプ氏が目論むスタートダッシュの出鼻がくじかれる可能性もある。

トランプ氏は選挙中に“3選”や“終身大統領”を口にすることがあった。再選を決めた今は発言を控えているものの、2期目も後半に入れば再び言い出す可能性は否定できない。ただし、憲法を修正するには、上下両院の三分の二以上などの発議と、四分の三以上の州(全50州のうち少なくとも38州)の承認が必要であり、実現のハードルは高い。今回の共和党の勝利では遠く及ばず、2026年の中間選挙で大勝しなければならない。もっとも、彼が既存のルールに従う場合の話であり、静かに後進に道を譲るかは予断を許さない。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

近藤 智也
執筆者紹介

政策調査部

政策調査部長 近藤 智也