8条ファンドの最低水準とESG格付け

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2022年03月29日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

欧州連合(EU)を拠点とする資産運用会社等のサステナビリティ開示規制を定めるSFDR(※1)は、レベル2(細則)に基づく開示が、「2023年1月1日」から適用開始される見込みとなっている(※2)。

本稿執筆時点では、レベル2は未採択である。レベル2は欧州委員会が採択するものだが、その前段階として、EUの銀行・証券・保険の監督当局が協同で、レベル2のドラフトを策定している。本稿執筆時点では、2021年10月公表のドラフトが最新のステータスである。

レベル2の内容面における注目点の一つに、「8条ファンドに何らかの最低水準が設けられるか否か」という議論がある。

「8条ファンド」とは、サステナブル投資(※3)には該当しないものの、結果としてESG(Environmental, Social, Governance)のうち‘E’又は‘S’を促進している投資を運用ポートフォリオのメインに据えたものであり、「ライトグリーン・ファンド」とも呼ばれている。

SFDRのレベル1(本則)には、8条ファンドの厳格な要件の定めはない。レベル2のドラフト(前掲)においても、そうした要件は提案されていない。

もっとも、欧州委員会は、現時点で流通している「8条ファンド」の一部について、いわゆる「グリーンウォッシング」(うわべだけの欺瞞的な環境訴求)の懸念があるとして、8条ファンドに何らかの「最低水準」を設けることを検討しているという。

この「最低水準」が数値基準であるとすると、例えば、ポートフォリオに占める「‘E’又は‘S’を促進するエクスポージャー」の割合を一定以上とすることが考えられる。そして、「‘E’又は‘S’を促進」の裏付として、ESG格付けが用いられる可能性がある。というのも、現に、SFDRの開示実例を見ても、そのようなアプローチで8条ファンドを区分している資産運用会社等が出てきており、そうした先進的な事例が欧州委員会の検討に影響を与える可能性があるためである(※4)。

ただし、ESG格付けについては、その提供業者に対する視線が厳しくなってきている。証券監督者国際機構(IOSCO)による報告書(2021年11月23日公表)や、これを踏まえた欧州証券市場監督局(ESMA)によるアンケート(2022年2月3日から同年3月11日までの間実施)は、ESG格付けの提供業者におけるメソドロジーの透明性、ビジネスモデルや利益相反を俎上に載せている。

議論は未だ初期段階のようだが、SFDRのレベル2の適用開始時期が「2023年1月1日」となりそうなことを考えると、EUで年内に何らかの行動規範が出てくる可能性がある。ESG格付けの提供業者がそうした行動規範に従うことは、「8条ファンド」の最低水準の担保にもつながろう。

(※1)SFDR: EU Regulation on Sustainability-related Disclosures in the Financial services sector
(※2)SFDRの概要については、以下の拙著大和総研レポートを参照されたい。


(※3)SFDRのレベル1(本則)の規定上、「サステナブル投資」に分類されるためには、ESGのうち‘E’又は‘S’の促進に貢献することを目的とした経済活動への投資であり、投資先の企業において‘G’に係るグッド・プラクティスを実践していること、が求められる。このサステナブル投資を運用ポートフォリオのメインに据えたものが「9条ファンド」であり、「ダークグリーン・ファンド」とも呼ばれている。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光