中央値で見ても、やはり若者が貧しくなってはいない

~20代男女の実質可処分所得の推移・中央値版

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2025年07月14日

先日、筆者はあるメディアのインタビューにて、この10年ほどの日本の婚姻の減少と若者の所得との関係について問われた際に、若者の賃金は物価上昇率程度は伸びており、所得が下がったから結婚できなくなったわけではない旨を答えた。

このインタビューに対しては、インターネット上で、「税や社会保険料が増えていたり、物価が上がっていたりするために、実態は貧しくなっている」旨の意見があったが、筆者はこれら全てを考慮したうえで述べている。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」に基づく20代のフルタイムの男女の平均賃金をもとに、消費税を含む物価の変動、所得税・住民税・社会保険料の変化も加味して推計した「実質可処分所得」を見ると、この10年ほど、ほぼ横ばいで推移している(※1)。

一方、「平均値」は一部の高所得者によって引き上げられやすく、より若者全体の生活実感に近い「中央値」(101人中51番目に相当する「中位」の人の年収に相当)をもとに分析すべきだ、との意見もあった。確かに、高い能力を持った即戦力人材に新卒採用直後から高額な給与を支給する企業も増えている。もし、平均値と中央値が大きく乖離しているのであれば、より若者全体の生活実感に近い「中央値」における実質可処分所得を分析する必要がある。

そこで、同じく厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の賃金分布統計を用いて、20代男女の年収の平均値と中央値の推移を比べてみたものが、次の図表1だ。年収の平均値は一部の高所得者が押し上げている面があり、確かに、年収の中央値は平均値よりも低い。ただ、2024年の男性で、平均値が406.1万円に対し中央値は393.7万円、同女性で、平均値が366.2万円に対し中央値は357.5万円と、その差は3%程度だ。図表1で経年変化を見ても、男女とも、年収の平均値と中央値は概ね同じペースで伸びていることがわかる。

図表2は、20代男女の年収中央値をもとに、2012年以後の実質可処分所得の推移を見たものだ。中央値で見ても、2014年以後、20代の男女の実質可処分所得は概ね横ばいで推移している(※2)。

多くの人の認識とは異なるのかもしれないが、やはり、若者の賃金は物価上昇率程度は伸びており、貧しくなったから結婚できなくなったわけではないといってよさそうだ。

もちろん、政策により若者の賃金や可処分所得を引き上げていくことは大事だ。だが、今後の少子化対策を考えていくうえで、若者の結婚を巡り、経済以外の要因、おそらく、価値観の変化が大きな影響を及ぼしている可能性にも十分留意する必要があるだろう。

(※2)なお、中央値では横ばいに推移しているとしても、非正規雇用者など、より低年収の者が増えたのではないかとの指摘もあるかもしれない。だが、20代の男女それぞれのフルタイム就業者における下位から25%の者および下位から10%の者についても、2012年から2024年にかけて、中央値と同等以上の所定内賃金の増加があった(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」による)。また、2012年から2024年にかけて、在学中を除く20代の男女の非正規労働者の割合は、いずれも低下している(総務省「労働力調査」による)。これらを踏まえると、低年収の若者が増えているともいえない。

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是枝 俊悟
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 是枝 俊悟