トランプ関税による悪影響は「これから」

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2025年07月04日

2025年7月1日、日本銀行(日銀)は短観の6月調査を発表した。4月の「相互関税」導入など、トランプ米政権の関税措置(トランプ関税)の大幅強化による企業活動への影響が注目されたが、大企業・製造業の業況判断DI(最近)は3月調査から小幅ながら改善した。25%の追加関税が発動された自動車の業況判断DI(最近)は悪化したもののプラス圏にあり、鉄鋼は原材料価格の低下もあって大幅に改善した。

直近で5月までの実質輸出を財別に見ると、自動車関連を含めすべての財が横ばい圏内か増加傾向にある。月次の設備投資関連指標も総じて底堅く推移しており、日本経済の変調は見られない。しかし、こうした動きはトランプ関税の影響そのものが小さいことを意味するわけではない。米国に輸出する企業や米国内の小売企業などが関税引き上げ分の多くを負担する形で、トランプ関税の影響が抑えられたとみるべきだ。

例えば、日本の米国向け乗用車輸出価格は5月に前年比▲21.7%と大幅に低下し、追加関税の大部分を相殺した(財務省「貿易統計」)。こうした企業の対応は持続可能ではなく、いずれ価格転嫁を余儀なくされるだろう。実際、報道によると、トヨタ自動車は7月1日から米国での車両販売価格を平均270ドル(4万円程度)引き上げた。スバルは6月出荷分から、三菱自動車は6月18日から値上げを行っており、マツダは値上げを検討すると表明した。

それでは、日本の対米輸出品に課された追加関税分のうち、最終的にどの程度が米国の販売価格に転嫁されるだろうか。2000年代以降の日米間貿易のデータなどをもとに当社が推計したところ、関税率の変化による日本製品の輸出価格の弾性値は▲0.35程度である。直近で16%程度と試算される米国の対日追加関税率のうち11%程度(=16%×(1 - 0.35))は、いずれ米民間部門が負担することを示唆する。

これは米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が2025年6月18日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見において、米国のインフレはトランプ関税により「夏にかけてさらに強まると予想している」と発言したことと整合的である。今後は米国のインフレ再加速による景気悪化を通じて、日本経済にも悪影響が波及する可能性には注意が必要だ。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司