今回も「想定外」だった駆け込み需要

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2019年11月12日

  • 小林 俊介

10月1日より、消費税率が8%から10%へと引き上げられている。今回の増税に関しても、前回増税時と異なり、消費および日本経済全体を腰折れさせる可能性は極めて限定的であるとの楽観的な見通しが事前予想の大宗を占めていた。その主たる理由を挙げると以下の三点となろう。すなわち、①消費の基調が底堅い、②各種需要平準化策により駆け込み需要と反動減は抑制される、③軽減税率の導入や教育無償化の影響を合わせれば負の所得効果が小さい、という見方だ。

このうち③負の所得効果については、今回の増税に伴うネットの財政緊縮効果は約2兆円と、前回増税時の約8兆円よりも小幅にとどまる見込みだ。しかし、①②については議論の余地が残る。最近頻繁に報道されているとおり、想定外の駆け込み需要が発生していたならば、当然ながら②の妥当性は揺らぐ。①についても足下までの消費実績は底上げされてきた可能性が高い。換言すれば、駆け込み需要を除いた消費の基調は見た目ほど強くなかった可能性がある。

この見方を支持する一つの材料として、総雇用者所得の伸び率は、2018年から継続的に低下している。名目ベースの総雇用者所得の伸びは直近で前年同月比+1%強にとどまっており、直近のピークであった2018年前半の同+約4%に比べると落ち込みの幅も大きい。

総雇用者所得の伸びが鈍化している主因は「雇用者数の伸びが鈍化していること」、そして「一人当たり労働時間が減少していること」に求められる。後者については景気循環とは無関係な要因-例えば改元に伴う祝日の増加、あるいは罰則付き残業規制の影響など-も大きいとみられる。しかしこうした特殊要因のない前者について、外需の不振を端緒とする景気減速と無関係と言うことはできまい。かつて生じていたような「非正規社員から正規社員への職制転換」 も勢いを欠いている。

このように総雇用者所得が伸び悩む中でも、家計消費をはじめとする内需が堅調だった要因として、消費税増税前の駆け込み需要等に支えられた部分を無視することは難しい。この問題意識を起点として、現在入手可能なデータ(マクロ経済統計と業界統計)を利用しながら、増税直前の9月までにどの程度の駆け込み需要が発生したのかを確認した。

結果として浮かび上がった事実を簡潔に述べると、過去の消費増税時に比べて抑制されていたものの、今回も一部の分野で顕著な駆け込み需要が確認されている。とりわけ、対策のエアポケットとなった分野で駆け込み需要が顕著に発生したようだ。自動車では普通車と軽自動車、住宅では持家と分譲、小売店では百貨店、家電量販店、およびドラッグストアにおいて増税直前期の需要が大幅に伸長している。したがって今後はその反動減が発生する。

加えて注意すべき点が二つ残される。一つは先述した「負の所得効果」だ。もう一つは、自動車や住宅等を購入した分、当面は家計の「節約志向」が強まる可能性があるということだ。同傾向は2014年の増税後にも確認されている。実質ベースでも名目ベースでも、当面の消費動向は足踏みを続ける公算が大きいとみるべきだろう。

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