サマリー
◆10月1日より、消費税率が現行の8%から10%へと引き上げられる。本稿では今回の消費増税、および対策の内容を精査するとともに、現時点での家計の消費行動を網羅的に整理し、10月以降に日本経済が受ける影響を検証する。
◆消費増税は、「所得効果」と「代替効果」の二つの効果を通じて消費に影響を与える。「所得効果」は、消費増税によって物価が上昇した分だけ、実質所得が低下することによって半永続的に消費が抑制される効果である。「代替効果」は消費増税前の駆け込み需要と、その反動である。
◆所得効果について検証すると、今回の増税に伴う家計負担の一部は、軽減税率の導入や教育無償化など社会保障充実策により相殺される。結果としてネットの財政緊縮効果は約2兆円と、前回増税時の約8兆円よりも小幅にとどまる見込みだ。各種対策によって負の所得効果はさらに緩和されるが、2020年度にかけては対策効果が剥落し、断続的に消費を抑制する効果が残存することになる。
◆なお、消費増税および各種対策に伴う所得効果を世代別に確認すると、若年世帯などでは増税の悪影響よりも教育無償化の恩恵が大きくなる可能性が高い。こうした世代間の影響のばらつきは、品目別に見た消費動向にも影響を与えそうだ。
◆代替効果は、前回に比べれば限定的なものにとどまる可能性が高い。前回は最終的に5%pt(5%⇒10%)の税率引き上げが見込まれる中で駆け込み需要が発生していたことに対して、今回の税率引き上げは2%pt(8%⇒10%)にすぎない。また、5年前に購入した住宅や耐久財のストックが残存している。加えて今回の各種対策により、消費増税後の方が、増税前よりも節税効果が高くなるケースが散見される。実際、消費増税前の駆け込み需要は、現時点で家計購入ベースでは確認されない。
◆しかし、駆け込み需要の発現を見越したものとみられる、言わば「駆け込み出荷」が発生している。中でも「自動車」「家電」「パルプ・紙・紙加工品工業」「化学工業」、そして「住宅」部門における駆け込み出荷(着工)が顕著だ。これらが成長を押し上げる効果は増税以降に剥落し、反動減に転じていく公算が大きい点には注意が必要である。
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