活動指標のすすめ
2025年08月08日
企業価値の源泉が「有形資産」から「無形資産」に移る中、企業価値を計る情報として、非財務情報への関心が高まっている。短期的な財務数値には表れないが、企業の持続可能性や中長期的な企業価値向上に影響を与える重要な判断情報として位置付けられており、企業側の開示の動きが活発化している。
非財務情報は、経営戦略、人的資本(スキルや従業員エンゲージメント)、顧客満足度、社会貢献活動、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応など多岐にわたる。企業は財務情報に加えて、これらの非財務情報を自社の価値創造ストーリーと紐づけて開示するケースが増えている。さらに独自指標を開示する事例も見受けられる。
筆者が注目したいのは、従業員の行動の累積を示す情報である。これを『活動指標』と定義してみたい。これは代表的な非財務情報以外の、企業が個別に設定する活動情報を想定しており、非財務情報の先行指標として将来の財務成果につながる活動と考える。
活動指標は例えば、新規顧客の獲得件数、研修の受講率・受講時間、新商品の投入件数などがあげられる。量的・質的の両面から効果的な指標を設定することで、企業価値を高める原動力になり得る。ここでは、法人営業の職種を想定して活動指標の活用例を解説しよう。
営業職の活動評価は、主に訪問件数・訪問時間・訪問相手・訪問内容が判断材料となる。一方で、一律の活動指標を適用することは得策ではなく、営業員の能力・経験や担当顧客の特性を考慮して、等級などに基づき、細分化して設定することが有効となる。例えば以下のように、若年層は訪問頻度・活動量、中堅層は商談時間比率・質の向上、ベテラン層は商談時間・受注確度の向上を重視すると良いだろう。
①若年層(等級:1・2級) 顧客訪問件数:月50件以上
②中堅層(等級:3・4級) 正味面談時間/総営業時間(%):45%以上
③ベテラン層(等級:5・6級) 1回当たりの正味面談時間:1時間以上
近年、ステークホルダーからの非財務情報に対する開示圧力がますます高まっている。価値創造ストーリーとのつながりを示すだけでなく、活動指標を設定・モニタリングしていくことで、企業価値向上への取り組みの実効性や説明力を担保することができるだろう。活動指標について、どこまで開示するかは検討の余地があるが、少なくとも社内では人材の多様化に合わせて細分化して設定し、企業価値とのつながりを整理していくことが肝要である。
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マネジメントコンサルティング部
主任コンサルタント 柳澤 大貴