サマリー
◆2025年7月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月差+7.3万人と市場予想(Bloomberg調査:同+10.4万人)を下回った。また、失業率についても4.2%と市場予想通りに上昇した。さらに、就業率は2021年12月以来の低水準となった。レイオフ・解雇等を含む非自発的失業が急増している状況ではないものの、雇用者数の減速を中心に雇用環境は悪化傾向にある。
◆今回の雇用統計の最大のサプライズは、雇用者数の過去分の下方修正幅の大きさだ。5月の雇用者数は▲12.5万人分、6月は▲13.3万人分と、合計で▲25.8万人分の大幅な下方修正となった。雇用者数の過去分については、景気悪化時に下方修正幅が大きくなる傾向にある。今回の下方修正は、コロナ禍を除けば、近年の景気後退時を上回る修正幅となった。トランプ第二次政権の開始以降、追加関税措置や不法移民抑制などが実施されてきており、雇用環境への悪影響が警戒されてきた。今回の雇用統計の雇用者数の結果は、雇用環境の悪化が実際に顕在化し始めた可能性を示唆している。
◆雇用環境の悪化を懸念する声に対し、次回8月の雇用統計で6・7月分が修正され得ること、5月分の雇用者数の下方修正は季節調整要因であることや、業種別では州・地方政府の雇用者数の下方修正幅が大きいといった特殊要因を指摘する向きもある。ただし、季節調整前データと季節調整後データを前年比で見た場合、大きな乖離はなく、季節調整要因によって大きな歪みが生じているとはいえない。また、州・地方政府の下方修正幅が大きいとはいえ、民間部門の雇用者数の増加ペースは3カ月移動平均で減速し、雇用環境の悪化が懸念された2024年8月以来の低水準となった。特殊要因や再修正の可能性があるとはいえ、現時点では素直に雇用環境の悪化を警戒すべきだろう。
◆金融政策に目を向けると、7月29日・30日に実施されたFOMC後の記者会見で、パウエルFRB議長は、雇用環境について、足元は堅調であるものの下振れリスクがあると何度も指摘した。また、パウエル議長は9月のFOMCまでに公表される2回のCPI、雇用統計に注目すべきと指摘していた。7月の雇用統計の結果を受け、利下げの可能性が高まったと捉える必要があるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米GDP 前期比年率+3.0%とプラスに転じる
2025年4-6月期米GDP:輸入の反動減が押し上げた一方、内需は減速
2025年08月01日
-
FOMC 9月利下げに向けて含みを持たせる
インフレ統計の歪みと雇用統計の弱含みに注目
2025年07月31日
-
米国経済見通し 関税激化はいつまでか
米国内の不満の高まりを受け、関税激化の長期化は考えにくい
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日