不可測な時代の教育サービス

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2015年09月10日

  • 岡野 武志

学校基本調査(※1)によれば、平成27年3月の大学(学部)卒業者に占める就職者の割合(就職率)は、前年から2.8ポイント上昇して72.6%となった。世界的な景気後退などから、就職率は平成22年に60.8%へと大きく低下したが、その後、5年連続で上昇しており、平成27年は今世紀になって初めて70%の大台に乗せた。平成22年に比べると、平成27年の新卒就職者数は8万人以上増加し、約41万人に達している。

主な分野(関係学科)の就職状況をみると、就職者数が多い「社会科学」と「人文科学」では、「事務従事者」と「販売従事者」に分類される職業への就職者が7割を超える。「事務従事者」と「販売従事者」には、他の分野からも一定の採用があり、この二つの職業で就職者全体の過半を占める。日本では、採用後に企業の特性に合わせて能力開発を図る、いわゆるメンバーシップ型が根強いものとみられる。

一方、「保健」や「工学」、「教育」などの分野では、「専門的・技術的職業従事者」に分類される職業に就く比率が高い。産業別にみても、「保健」では「医療、福祉」への就職率が高く、「工学」では「製造業」や「建設業」、「教育」では「教育、学習支援業」への就職者が多くなっている。これらの分野では、大学入学時点で将来の職業を一定程度イメージできる、いわゆるジョブ型が広がっている可能性がある。

就職者にも進学者(※2)にも含まれない卒業者(進路未定者)は、平成22年の約11万7千人(全卒業者の21.7%)から大きく減少した。しかし、売り手市場といわれた平成27年でも、進路未定者は約7万6千人(同13.5%)を数え、そこには就職準備中の者やパート・アルバイトなどの一時的な職業に就いた者、計約4万3千人が含まれる。「社会科学」と「人文科学」では進路未定者の比率が相対的に高く、就職・進学ではジョブ型が優勢にもみえる。

一方で、新卒就職者は、3年目までに3割程度が離職してしまうという。厳しい就職戦線を乗り越えた平成22年の就職者でも、1年目までで約4万9千人(新卒就職者の13.4%)、3年目までで約11万3千人(同31.0%)が離職している(※3)。「教育、学習支援業」(48.9%)や「医療、福祉」(37.7%)は、3年目までの離職率が全体平均を上回っており、ジョブ型にも厳しい面があることがうかがえる。

少子高齢化に伴って労働力人口が減少する社会では、高い付加価値を生み出す人材や労働力の効率的な配分などが求められよう。しかし、大学という高等教育を経ても、半数程度が進路未定者や離職者になるとすれば、教育システムが提供するサービスは、社会や経済のニーズから乖離している可能性もある。もとより、大学が受験生を選抜する仕組みの下では、希望する教育サービスを受けられていない人々も多い。

科学技術の発達やICT社会の進展等に伴うイノベーションは、求められる労働の質を変え、労働量の削減に寄与することも多い。その際には、メンバーシップ型かジョブ型かを問わず、既に社会人として働いていても、異なる職業への展開や新たな力量の獲得が求められる可能性もある。現在は存在しない職業に就く人々が増えるとすれば、キャリアの方向転換や学び直しに役立つ教育サービスへのニーズも高まるであろう。

近い将来さえ見通すことが難しい不可測な時代にあっては、利用者が必要な時に必要な教育を受けられる、柔軟で効果的な教育サービスが求められよう。利用者に満足を提供できなければ、やがてイノベーションが大きな変革をもたらす時が来るのは、教育サービスといえども例外ではないかもしれない。

主な分野(関係学科)の就職状況(平成22年・27年)

<おすすめ関連レポート>
ジョブ型職業を意識した進路選択の兆し」(2013年8月15日)
大学による受験生の選抜」(2013年3月19日)
伸び悩む大学進学率」(2012年9月11日)

(※1)「学校基本調査-平成27年度(速報)結果の概要-」文部科学省
(※2)「進学者」は、「大学院等への進学者」、「専門学校・外国の学校等入学者」、「臨床研修医(予定者を含む)」の合計
(※3)「新規学卒者の離職状況に関する資料一覧」厚生労働省

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