長期・超長期金利の上昇がもたらす二つのリスク

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2025年05月28日

30年や40年といった超長期国債の利回りが上昇している。5月後半にはこれらの利回りが過去最高水準を更新し、それに伴い10年債利回り(長期金利)も上昇した。銀行から家計や企業への貸出を残存期間別に見ると、短期ゾーンが大半を占めるため、長期や超長期金利の上昇が直ちに実体経済に大きな影響を与えることはないだろう。しかし、金利上昇が金融市場において潜在的なリスクを着実に蓄積している状況には注意が必要である。

リスクの一つとして、長期金利の上昇が起点となり、更なる長期金利の上昇が引き起こされる可能性が挙げられる。詳細は割愛するが、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)規制上、金利が上昇すると追加的に購入することのできる国債の金額が減少してしまうことが、この連鎖的な上昇の背景にある(※1)。すなわち、金利上昇が銀行の国債需要を減少させ、それが国債の価格低下(更なる金利上昇)を招くのである。

もっとも、2013年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、日本銀行(日銀)が銀行等から国債を大量に買入れることで国債の保有残高を拡大させてきた経緯を踏まえれば、日銀が保有残高の縮小を進めるという当時とは正反対の状況において、銀行等が国債の買入れ額を増加させることは自然な流れだ。このため当面の間は、上記のメカニズムによって国債への需要が減少するという状況には至らないだろう。それでも、金利上昇によって銀行による国債の潜在的な保有余地(需要)が狭まれば、需給がより早期に緩和してしまうことで将来的な金利上昇リスクが高まることは間違いないだろう。

もう一つのリスクは金融システムへの悪影響だ。長期金利が上昇すれば、政府による利払い負担が増加することで、財政の持続可能性への疑念を強め得る。5月16日に大手格付け会社のMoody's Ratingsは、財政状況の見通しの悪化等を理由に米国債に対する格付けを1段階引き下げた。長期金利の上昇が日本の財政の持続可能性を脅かせば、日本も同様に格下げを受ける可能性がある。

こうした状況に陥った場合に、「ソブリンシーリング」によって日本の金融機関の格付けも引き下げられる可能性には留意が必要だ。「ソブリンシーリング」とは、国に対する格付けがその国の金融機関等の格付けの上限となるという考え方である。金融危機が生じた場合に公的資金を注入する主体が国であることから、いわば“連帯保証人”の格付けが上限となるということだ。

現在の日本への格付けを踏まえれば、「ソブリンシーリング」によって直ちに金融市場に大きな悪影響が現れるとは考えにくい。だが、財政の持続可能性を担保できなければ、日本国債に対する格下げが金融機関の格下げに繋がり、とりわけ国際金融市場でのドル調達コストが増加するだろう。最悪の場合には金融危機に発展することも考えられる。

超長期金利が速いテンポで上昇する今、石破茂首相が国会で述べた通り、「金利がある世界の恐ろしさを認識する必要がある」のかもしれない。

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久後 翔太郎
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 久後 翔太郎