2014年株主総会の争点
2014年03月11日
社外取締役の選任が一層強く求められる
日本株に占める外国人投資家の保有比率は、2013年3月末で28.0%となり(※1)、2013年中も大きく買い越しているため(※2)、その比率はさらに上がっているだろう。外国人保有の増加は、日本の企業や経済の成長性が評価されてのことであり、基本的には好ましい傾向であるが、6月末の株主総会シーズンに向けては、若干の警戒が必要になるかもしれない。外国機関投資家は、株主総会議案を一定の判断基準に照らして賛否を決しており、議案の内容によっては、まとまった反対票が多くの外国機関投資家から投じられることもある。2013年は、外国機関投資家に影響力のある議決権行使助言会社が、助言の方針を一部変更したことから、少なからぬ上場企業のトップ(CEO・社長・会長等)の取締役選任議案に反対票があった。賛成票が70%程度に留まる例もあり、否決リスクは高まりを見せている。
2013年の反対票の増加は、社外取締役を1名も選任しない企業の経営トップには、信を置けないゆえに反対という議決権行使助言方針の導入によるものであった。経営トップは、株主の利益を守るため企業のガバナンス構造の改善に取り組むべきであるのに、それを行っていないという批判である。社外取締役の導入が、株主の利益擁護に真に有益であるかには、なお疑問の余地があるが、外国機関投資家の議決権行使には、明らかな変化が見えることを忘れるべきではない。2014年2月に東京証券取引所が、上場会社に対し、「取締役である独立役員」(独立取締役)を少なくとも1名以上確保する努力義務を課す有価証券上場規程の改正を行ったこともあり(※3)、社外取締役を選任しない企業の経営トップに対する内外の機関投資家の議決権行使は、厳しさを増すだろう。
業績不振な企業の取締役選任議案への反対票増加の恐れ
外国機関投資家は、取締役や監査役の果たすべき役割を企業経営の監視だとみているため、経営トップが企業ガバナンスにどう取り組んでいるかを議決権行使の判断基準に読み込んでいる。取締役や監査役の役割は、業績や株価を上げることではないと考えられていたため、経営の結果としての業績や株価などが振るわなくとも、外国機関投資家からの反対投票増加に結びつくことはなかった。日本の機関投資家の中には、業績基準を併用して取締役選任議案を検討するところが少なからずあったのとは対照的だ。しかし、これが今後変化するかもしれない。外国機関投資家も、何らかの業績基準を設けて、経営の質を測定し議決権行使に反映させようとする動きがある。というのも、最有力の議決権行使助言会社が、取締役選任議案等の判断基準に企業の資本効率を取り入れる検討を始めているからだ。具体的にどのような基準になるかは、不明であるが、ROEなどが一定水準に達していない場合には、経営トップを候補者とする取締役選任議案への反対投票を議決権行使助言会社が推奨し、それを受けて外国機関投資家からの議決権行使における反対票が増加する恐れが高まるのではないだろうか。議決権行使助言会社が実際に資本効率等業績基準を導入するのは、2015年以降になると思われるが、こうした変化の兆しを先取りしようとする機関投資家がいても不思議ではない。業績や株価に不安がある企業にとっては、株主総会対策の重要性が増すことになろう。
国内機関投資家の行動の活発化
上場企業を悩ませるのは外国機関投資家だけではない。国内機関投資家の議決権行使など株主行動も活発化する方向にある。2014年2月に金融庁の検討会が公表した日本版スチュワードシップ・コード(※4)は、企業に投資する機関投資家に対して、投資先企業の株主総会における適正な議決権行使や、経営陣との対話を促すものだ。国内機関投資家の多くは、既に議決権行使結果の開示を行っているし、投資先企業との対話にも取り組んでいる。そのため、日本版スチュワードシップ・コードが導入されたとしても、国内機関投資家の行動が変わることはないかもしれない。しかし、金融庁では、今後、日本版スチュワードシップ・コードへの取り組みに関する機関投資家の開示情報へのリンクを、インターネット上で一覧性のある形で公表する方針であり、これが機関投資家行動を変える可能性はあろう。他の機関投資家と比較して投資先企業に対する反対投票の比率が低いことが容易にわかるようになれば、日本版スチュワードシップ・コードへの取り組みが消極的だと誤解されることにもなりかねない。そのような誤解を受けることを避けるために反対投票を増やそうとする動機が生まれるかもしれない。また、投資先企業との対話の実施状況は、公表を求められるわけではないが、やはり他の機関投資家の取り組みと比較される可能性があるとなれば、必ずしも必要ではない対話を企画することになり、企業側にとっては、煩瑣の種が増える恐れともなる。
以上の通り、2014年株主総会では、議案の内容によっては外国機関投資家からの反対票がこれまで以上に多く出るようになるであろうし、国内機関投資家の行動の活発化も予想されるといえよう。
(※1)東京証券取引所・大阪証券取引所・名古屋証券取引所・福岡証券取引所・札幌証券取引所「平成24年度株式分布状況調査の調査結果について」(平成25年6月20日)
(※2)東京証券取引所「投資部門別売買状況(株券/CB/先物・オプション取引)」のうち株券(株数ベース(2013年))(※)東証各市場、東証・名証の二市場の一・二部等合計について集計。
(※3)東京証券取引所「独立性の高い社外取締役の確保に係る有価証券上場規程の一部改正について」(平成26年2月5日)
(※4)「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~の確定について 別紙4
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主席研究員 鈴木 裕