自治体のキャッシュフロー分析 ~レベニュー債、新型PFIと一体の財務分析パラダイム~

2012年6月6日

報道によればレベニュー債が解禁される方針のようだ(※1)。ドーム球場を建てるにしても、老朽化した水道管を交換するにしても資金調達にあたっては、親団体たる地方自治体がその保証人になってくれるのが公共インフラにかかる資金調達の当然の文脈であった。一方レベニュー債の本質は親団体の保証がないということだ。改正PFI法が期待する独立採算型PFIも公的支出の削減が推進の動機であるが、レベニュー債も本質的に違わない(※2)。IMFには公的債務の圧縮を勧告され、国債の格付は下がり、財政悪化がいよいよ喫緊の課題と受けとめられてきた証左だろうと筆者は考えた。国債の返済を除いた歳出規模が70兆円弱、そのうち地方交付税で約16兆、補助金で約20兆円と地方向けの支出がほぼ半分を占める現状を踏まえると、地方財政とくに公共インフラの自立が財政健全化のカギだとの考え方に合点がいく。

親団体の傘を離れ、レベニュー債の金利もPFIの調達金利も公共インフラの信用力の実力に応じて上下する。信用力は民間企業の投資判断と同じくキャッシュフロー分析指標で測られる。この見方はいずれ親団体たる地方自治体を対象とする分析にも波及するだろう。そもそも、レベニュー債やPFIは、親団体たる自治体の財政改革の一環として検討されるべきものだからだ。レベニュー債もPFIも財政健全化の万能薬ではない。もとより民間の採算ラインに乗らないからこその公共インフラではないか。それでも必要な整備事業に対し、まずは自己規律がはたらくインフラ経営の仕組みを確立し、その上で財政余力と公益性を天秤にかけつつ官の関与度合いを見極めるのが官民連携の本質だ。だから、レベニュー債やPFIを検討するにあたって親団体の財政の実力をキャッシュフロー分析で把握するのはある意味当然の帰結である。言い換えれば、自治体のキャッシュフロー分析という新しい財務分析パラダイムなしではレベニュー債やPFIの本格普及はありえない。

図1は、平成23年3月期における政令指定都市のキャッシュフロー分析指標のバラツキを示したものである。縦軸の行政経常収支率はキャッシュベースの「売上高利益率」。企業で言えば収益力を意味するが自治体の場合は収支状況とでも言い換えられよう。横軸の実質債務月収倍率は、積立金などを差し引いた実質債務残高が経常月収の何ヶ月分あるかの形で借金の大きさを示している。

図1 政令指定都市のキャッシュフロー分析(平成23年3月期)図1 政令指定都市のキャッシュフロー分析(平成23年3月期)


縦横それぞれの平均値を座標軸とした図の位置関係から自治体の特徴がみえてくる。左上のゾーンは収支良好で借入も少なく健全財政だといえる。右側にいけばいくほど借入が多く、下にいけばいくほど「収益力」が小さいといえる。そうであっても右上ゾーンにあれば、借入は多いがそれに応じた返済能力もある。左下ゾーンなら収支水準は低いがそもそも返済を要する借入も小さいので財政自体に懸念は小さい、といった見立てとなる。借入が多く返済余力も平均水準を下回る右下のゾーンであるが、そのなかにあっても右下にいけばいくほど財務状況の問題の深刻度が大きいということになる。

平成23年3月期決算における浜松市のキャッシュフロー分析からみた財務状況を、平均に一番近い川崎市と並べてみてみよう(表1)。浜松市の行政経常収支率は18.9%と川崎市を6.9ポイント上回っている。内訳をみると、生活保護費など含む扶助費の経常収入に対する比率が23.3%と川崎市に比べて低くなっている。ちなみにこれは政令指定都市で大阪市が一番高い。実質債務月収倍率は15.1ヶ月と、川崎市に比べて8ヶ月ほど少ない。これを反映してか、経常収入に対する支払利息の比率も2.1%と低い。収支状況良好で借入水準も自治体にしては少なく、財政の持続可能性を表す債務償還可能年数は6.7年と非常に良好。他の条件が変わらないとすれば借入金を6.7年で完済できることを意味する。実質債務月収倍率と行政経常収支率を分母分子で組み合わせた、自治体の返済能力を測るに便利な指標である。

表1 3都市のキャッシュフロー分析比較(平成23年3月期)表1 3都市のキャッシュフロー分析比較(平成23年3月期)


ここでは自治体財政の特徴を相対的な位置関係から説明するためあえて平均値からのバラツキで論じたが、もともと信用力を見極めるにあたって平均にさしたる意味はない。景気の良し悪しに左右されて平均値は毎年変わるものである。自治体の中で上位にあろうがなかろうが、債務償還可能年数が異常に長ければ返済能力にはそれだけ懸念があることを意味し、そうした債務者に融資するにあたっては一段の注意力が必要になろう。実際どのレベルに諾否ラインを置くかは貸す側の自己責任で判断する話だ。ちなみに「債務償還可能年数」、「債務償還年数」をインターネットで検索したり経済誌の特集を探したりするといろいろ見つかる。「営業キャッシュフロー対有利子負債比率」と言っているものもある。ちなみに筆者の手元にあった「中小企業の会計38問38答」(※3)の「債務償還年数」の説明欄には「借入れの状況の安全度を診断する」とあった。判断の目安を示したスケールでは、25年を越えたころからグラデーションの色が濃くなり30年のあたりで「倒産危険病」と標されている。同様に、「実質債務月収倍率」は「有利子負債月商倍率」、「年商に対する借入比率」で説明されているケースが多いので調べてみることをお奨めする。最後に行政経常収支比率であるが、これは経済誌の「倒産ランキング」特集でたまに採用される「売上高営業キャッシュフロー比率」、「キャッシュフローマージン」と同じ概念だ。

このように民間企業とまったく同じ発想とテクニックで自治体の財務分析を行うのは時期尚早という意見もあろう。しかし、冒頭述べたような我が国財政をとりまく環境変化は自治体のリアルな返済能力から目をそらし続けることを容認するだろうか。そうではなかろう。この問題意識の帰結としてレベニュー債の解禁、PFIの推進という文脈があるならば、これとニワトリとタマゴの関係にあるキャッシュフロー分析も自治体の財政分析のスタンダードにならざるをえない。これは我が国財政の行く末の試金石でもある。

(注)本稿のキャッシュフロー分析は「地方公共団体向け財政融資 財務状況把握ハンドブック」(23年6月改訂版、財務省理財局)に基づき筆者が計算したもの。ただし実態修整は行っていない。
なお、本稿でいうキャッシュフロー分析は、いわゆる新地方公会計でいう「資金収支計算書」とは本質的に異なる。詳しくは次の記事を参照のこと。
2010年11月24日付コンサルティングインサイト「行政キャッシュフロー計算書は地方公会計の論点にどう答えるか~発生主義、複式簿記など~
次の記事では平成22年3月期の政令指定都市のキャッシュフロー分析指標が掲載されている。
あなたの街のギリシャ度――もうひとつの財政分析指標 原発自治体で見る キャッシュフロー分析指標の意義」週刊エコノミスト2011年12月13日号、P 28~30
(※1)平成24年5月21日付日本経済新聞夕刊。なおレベニュー債のそもそも論については次の記事を参照のこと。
2010年12月15日付コンサルティングインサイト「レベニュー債はなぜ実現しないのか、どうしてPFIはうまく機能しないのか
(※2)次の記事では独立採算型PFIをあえて「経営委託型PFI」と定義し、従来型に比べ何が新しいかを論じている。
2011年9月7日付コンサルティングインサイト「建設費延払型PFIから経営委託型PFIへ
(※3)中小企業庁「中小企業の会計38問38答」(平成16年7月改訂版)

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