地域・パブリック 経済・ビジネストピックス
レベニュー債はなぜ実現しないのか、どうしてPFIはうまく機能しないのか

2010年12月15日

親団体の保証がなければレベニュー債か

財政難に悩む地方自治体の起死回生策と目されるレベニュー債である。レベニュー債は事業目的別歳入債券ともいう。指定事業収益債と説明されることもある。要するに資金使途が特定されており、事業収益が返済財源となる新型地方債のことなのだが、そうだとすると公営企業が発行する公営企業債と何が違うのだろうか。そもそも地方債ははじめから使い道が決められた特定財源であり、何にでも使える一般財源ではない。さらに公営企業債においては原則として借入返済も事業収益から賄うことになっている。公営企業は独立採算制が原則だからだ。そういうわけでレベニュー債を字義通りに解釈しても特に目新しいものはない。単に事業収益で償還される地方債をレベニュー債というわけではなさそうだ。

地方債はいちいち使い道が決められているとはいえ会計区分上の話で、券面を見てもそれが何に使われているか書いているわけでなく、実態上の区別はない。事業体や使い道が違えば借入利率に差がつきそうなものだが、公営企業債の金利水準は、親団体たる地方自治体の借入利率とほとんど変わらない。地方公社や第三セクターは地方自治体と完全に別人格であるが、それでも資金使途や財務状況の違いが借入利率の差に如実に現れるというわけではない。それは親団体が保証人に立っているからだ(※1)。公営企業は親団体の明示的な保証を受けているわけではないが、返済が滞ることのないよう補助金や出資等で事後的に財政支援を受けているので実態的には親団体が保証人のように機能している。

では、ここで親団体の保証をはずせばレベニュー債になるのだろうか。ポイントとなる問いは、親団体の保証のあるなしがレベニュー債と単なる公営企業債を区別するのかということである。親団体の保証が解除された借入がどうなるか、イメージを得るために青森県が「みちのく有料道路」で検討している「レベニュー債」の仕組みをみてみよう(※2)。これは、単純にいえば、県の保証付きで銀行から借り入れていたものを、保証人なしローンに借り換えることである。この保証人なしのローンを「レベニュー債」としている。代わりに特別目的会社(SPC)が保有する地上権を担保にとる。SPCはレベニュー債で道路の地上権を買い、道路公社はその売却代金で銀行借入を弁済する。

従来、道路公社など外郭団体が銀行から融資を受けるにあたっては、親団体たる地方自治体が保証等をすることによって信用を補完してきたが、こうしたことが困難になってきている。地方自治体においては、将来的に自らの負担になる可能性がある簿外債務が、早期是正措置の発動基準である健全化判断比率を押し上げる要因になるため、損失補償を減らす必要に迫られている。また、保証を否認する判例もでてきており、今までのように親団体の保証があれば銀行はノーリスクで融資できるというわけでもなくなってきた。このようなことが、今般のような保証なし融資としての「レベニュー債」が検討される背景にある。

次は、この「レベニュー債」がどのような問題解決をもたらすのかということである。確かに、この仕組において自治体は保証等から解放されるメリット、銀行にはリスク債権を減らすメリットがあるが、まずは保証なしで肩代りする債権者または投資家が見つかるかどうかが懸念される。見つけたとしても自治体の庇護から離れ信用補完が剥落する分だけ借入利率は上がるだろう。利払いの増加が経営を圧迫する可能性も十分ある。

もっとも金利が上がらない可能性もないことはない。それはシナジー効果が期待できるM&Aなどを通じて企業価値そのものが向上する見込みがある場合など特別な事情が働いたときの話である。先の青森県のスキームも、沿線の温泉施設とシナジー効果を発揮し有料道路の価値が向上することを見込んでの成功事例となるだろう。親団体の保証なしの融資を「レベニュー債」とした場合、総合的にメリットがあるかどうかは、親団体が保証人から抜けることによる信用力の大幅ダウンを、事業構造の劇的な転換によっていかに覆すかにかかっている。つまりレベニュー債は問題解決のきっかけとなっているが、レベニュー債の仕組みそのものが問題を解決しているわけではないように思うのだ。

レベニュー債とは本質的に何なのか

筆者はレベニュー債をコーポレートファイナンスに対するプロジェクトファイナンスの文脈で考える。親団体からプロジェクトを切り離し、プロジェクトそのものの信用力を持って有利な調達をしようとする発想の延長にあるのがレベニュー債だ。地方自治体にあてはめればコーポレート(企業)は役所の本体で、プロジェクト(事業)は水道局その他の公営企業や、多目的ホールや球場をはじめとする公共施設となる。(現実性は別にして)企業体として経営ができるものをプロジェクトの概念に区分する。

ここでレベニュー債を定義するとき、コーポレートファイナンス、つまり地方自治体の本体で資金調達するよりも、プロジェクトファイナンス、つまり公営企業等の独自の信用力で資金調達したほうが有利な条件を獲得できるとしたところでレベニュー債は問題解決策としての意味をもつ。もっとも今はそのような状況にない。公営事業等を切り出してまたは地方公社に対する保証契約を解除して資金調達しようとすると調達コストが上がってしまう。というよりコーポレートファイナンスで借りたほうが断然有利な状況下にある。

ならばレベニュー債がプロジェクトファイナンスとして機能するためにクリアしなければならない環境条件は何か。まずは地方自治体本体の財務状況が調達金利に連動する仕組みが必要である。財務状況が芳しくない地方自治体においては借入利率が相応に上がるような仕組みを構築することである。現状、地方自治体の借入においては、実態的に国が保証人のようにふるまっているため、地方自治体の借入利率は財務状況の良し悪しにかかわらず国の借入利率つまり国債利回りに近づいてくる。まずはこうした「暗黙の政府保証」の問題をクリアしなければならない。その上で、公営企業はじめプロジェクトファイナンスの客体が、親団体たる地方自治体に対して十分な独立性を持つことだ。独立採算制の貫徹とも言える。公営企業等についていえば、親団体が公営企業等に対し破たん予防的な財政支援を施す仕組みを改善することだ。これは第三セクター等に対して保証を下りるのと同じ結果をもたらす。

ただ、親団体の財政支援そのものが悪いわけではないことに注意されたい。公益性のコストとして必要な負担はある。ただしそれは事前にキチンと評価してめったなことでは変えないようにする、喩えればゴルフの公式ハンデのようにあるべきだ。こうすることで民間とのイコールフッティングが成り立ち、良い市場メカニズムが働く。問題なのは補てん金の事後調整的な出し方である。債権者または投資家からみれば、公営企業が赤字に陥るリスクそのものより以前に、そのリスクを合理的に読めないことが問題なのだ。

さらに、地方自治体本体と、公営企業等や第三セクター等を同じ尺度で評価する仕組みも整備しなければならない。具体的には債権者や投資家の判断材料となるキャッシュフロー分析を踏まえた評価尺度である。

「暗黙の政府保証」がもし剥落したとすると、財政悪化した地方自治体の借入利率はそれ相応に高くなるだろう。ここではじめてバランスシートから事業体を切り出すインセンティブが生まれ、その事業体の収益を担保にプロジェクトファイナンスの方法で資金調達したほうが有利ではないかという論点が生まれる。実際はどうなのだろう。水道事業を例に考えてみよう。水は必ず必要だし地域独占性もある。暗黙の政府保証による低減効果を考えなければ、理屈上は、キャッシュフロー分析指標の水準において水道事業が親団体より良好であったとき水道事業の借入利率は親団体より低くなる。今後、施設の老朽化を背景に多額の更新費用が見込まれているが、これをレベニュー債で手当するメリットは大きい。ここにレベニュー債の解決策としての真髄がある。

2008年度決算における債務償還年数の比較

国債より低い利回りはレベニュー債のメリットをそいでしまわないか

ありていに言えば、親団体が自らの信用力で地方債を発行したほうが、レベニュー債を使うよりも調達コストが安い。だからあえてレベニュー債を導入しようという気にならない。その背景に「暗黙の政府保証」があると説明したところだが、近年はそれだけで説明できない状況、つまり国債利回りさえ下回るレートで調達できるケースが出現しているようだ(※4)。地方債に入札制度を取り入れるケースが増えてきていることと、いよいよ貸出先がなくなった一部の金融機関がそのようなレートを提示していることが背景にあるらしい。本来は、地方債における金利水準の上昇が財政悪化のシグナルとして働くべき市場メカニズムであるが、まったくそうなっていない。誤ったシグナルを発している可能性さえある。

PFI/PPPの課題も根は同じではないか

これはレベニュー債だけの問題ではない。官民あげて進められているPFIについても同じことがいえる。国債を下回る利率で資金調達できる中、PFIを導入しようとすればその分調達コストが嵩むこととなる。PFIはPrivate Finance Initiativeを略したものであるが、民間資金を導入するとコストが嵩むというのであれば、PFIはその名称通りの機能を発揮できているのだろうか、いまひとつ腹に落ちない。

ひるがえって資金調達コストが嵩み、それでもなおPFIが安上がりだというとき、その要因はいったい何なのか考えてみる。民間受注者(SPC)が業務を一括して請け負うことで分割発注のムダが省けるいわば「範囲の経済性」の成果なのか。同程度のサービスでも民間の提供プロセスは洗練されていてムダがなく経験効果もあって、それがコストの差に顕れるという理屈なのか。こうしたものなら意義はあろう。ただし、発注にあたって材料や作業プロセスを細かく指定するのではなく、整備事業がもたらすサービスのレベルで指定することが前提だ。公共施設を建設するその作業ではなく、作業の結果としての完成品だけでもなく、さらにその先にある顧客満足を注文するという形態でなければバリューエンジニアリングの出番がない(※5)

しかし、実態をみるとこのような「性能発注」が普及しているとは考えにくく、そうだとすると何によって民間活用のメリットが説明されているのだろうか思いあぐねる。賃金水準が低い民間に委託すると人件費が下がるということか。入札制度の導入による競争原理の発揮か。それもコストダウンのチキンレースではなく成果を競うコンクールとなっていればよいが。公共建築を請け負った実績に価値があるのだろうか。もしそうだとすれば筆者はこれを「暗黙のネーミングライツ」と名付けよう。次の受注に繋げるための隠れた広告宣伝費だ。

筆者は、レベニュー債もPFI/PPPも、当のプロジェクトが調達金利というシグナルで適切に評価されることによって本来の機能が発揮されるものと考えている。住民に支持されないプロジェクトの金利水準は相応に高くなり、実行を踏みとどまる動機となる。端的にいえば市場メカニズムを利かせることで資源の最適配分を実現しようとするシステムだ。しかし、暗黙の政府保証、さらに入札制度を背景とした説明困難な金利環境の下、そこで働いているとされる「市場メカニズム」とは何者か。デフレと現場の疲弊をもたらす悪い市場メカニズムではないのか一抹の不安が残る。

(※1)本文中ではわかりやすさを優先しあえて「保証」としたが、正確には債務保証または損失補償の2種類ある。原則禁止されているのが債務保証であり、損失補償はそうではないのだが、近年、損失補償でも契約書の内容によっては実質的に債務保証契約と異ならないとして否認される判決が出されている。

(※2)次の記事も参考のこと。「青森県の『レベニュー債』は自治体の救世主となるか」金山隆一、週刊エコノミスト2010年12月7日号、P36-37

(※3)親団体(普通会計)の債務償還年数は行政キャッシュフロー計算書の分析指標のひとつであり、2008年度決算統計に基づき大和総研が算出した。財務省「地方公共団体向け財政融資財務状況把握ハンドブック」の方法に拠っているが、実質債務については地方債現在高に債務負担行為支出予定額を加え、現金預金(歳計現金、財政調整基金、減債基金)を控除したものとした。また収支の一過性、資産の換金性及び簿外債務の評価による補正は行っていない。上水道事業の債務償還年数は厚生労働省「水道版バランススコアカードを活用した事業統合効果の評価検討書」に掲載されている算式で計算した。なお千葉市は上水道事業の「営業収益対償却・繰入前経常利益率」がマイナスであり債務償還年数が算出できないため項目から除いた。詳しくは次の記事を参照。
財務省は自治体の何を「診断」するのか? ~一括交付金制度で変わる地方財政の見方~」2010年7月1日付コンサルティングインサイト
水道事業の資金調達力を診断する~水ビジネスの新たな展開に向けて~」2010年4月14日付コンサルティングインサイト

(※4)次の記事も参考のこと。
資金循環構造からみたレベニュー債の意味~地域主権改革とPPP/PFIの背後にあるもの~」2010年11月4日付コンサルティングインサイト
「国債より低い利回り 地域金融機関を窮地に追いやる『地方債バブル』の実態」花田真理、週刊エコノミスト2010年12月7日号、P34-35

(※5)VE (Value Engineering)とは、 工業製品やサービスにおいて、その使用によってもたらされる顧客満足すなわち機能(Function)を最小のコスト(Cost)で実現することで価値(value)を最大化しようとするプロセス改善の体系的手法のこと。
価値(Value) = 機能(Function)&pide;コスト(Cost)の関係式で表される。

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