規制の柔構造化と実効性あるリスク管理・モニタリング
2026年11月04日
銀行法等で金融機関に課される自己資本比率規制や大口信用供与等規制などの規制は、一定の数値基準を設定して金融機関が保有するリスクをコントロールしようとする。しかし、出資や融資を通じて金融機関に生じるリスクの程度は、出資・融資の態様等に応じて様々であることから、数値基準を一律に当てはめた場合には不都合な結果が生じうる。また、貸金業法では、潜脱行為を防止する狙いもあって、貸金業であれば、消費者向けも事業者向けも基本的に同一の規制が適用されるが、例えば、大企業向けの貸付けについて、消費者向けと同様の借り手保護のための規制が必要なのかという問題が出てくる。
9月に金融庁が公表した「2026事務年度金融行政方針」(以下「金融行政方針」)の「1.金融機能の更なる発揮を促し、持続的な成長に貢献する」(※1)では、7月に政府が策定した「成長投資を促進するための金融戦略-資産運用立国のアップグレード-」(以下「金融戦略」)を着実に具体化・実行していく方針が示された。「金融戦略」では、戦略分野等への成長投資や企業の事業再構築・再編を金融面から支えるため、社債市場やローン・セカンダリー市場の活性化など厚みのある金融市場を実現することと並んで、金融機関による資金供給・成長支援機能を強化することが掲げられている。そして、金融機関による戦略分野等への投融資を促進するとともに、PEファンドやベンチャーキャピタルを通じた成長資金供給の発展を促すため、金融機関にかかる自己資本比率規制や大口信用供与等規制、議決権保有規制などの適用を一部緩和することとされる。また、成長投資を支える資金供給主体の多様化を図るため、大企業向けの貸付けなどを念頭に、貸金業にかかる規制の見直しを図ることとされる。
冒頭に述べた点を考慮すれば、規制を柔構造化(業務の内容やリスクの程度に応じて規制の内容を調整)していく方向性は妥当なものといえる。ただ、結果として規制が緩和され、投融資が拡大していく場合には、金融機関に生じるリスクを適切にコントロールしていくため、金融機関自身によるリスク管理やそれに対する当局のモニタリングがこれまで以上に重要となってくる。
「金融行政方針」の「2.金融システムの安定や市場の公正性・透明性を確保する」では、金利の上昇や企業の資金需要の増加など、金融機関を取り巻く金融・経済環境の変化が指摘され、個別の金融機関の対応状況や、個々のリスクの蓄積が金融システム全体に与える影響などについてモニタリングを高度化する方針が示された(具体的には、「金利環境の変化に伴う流動性・金利リスク」、「不動産等の信用リスク」について重点的にモニタリングを行うとされる)。また、「金融戦略」で成長投資を支える資金供給主体の多様化が図られていることも念頭に、プライベートアセット市場やノンバンク金融仲介に関するモニタリングのあり方を検討する方針も掲げられた。
政府が掲げる成長戦略の今後の進捗が金利の水準などにどの程度の影響を及ぼすことになるのか、現時点では不透明な部分が多い。金利の水準いかんは不動産市場の動向にも大きな影響を及ぼすことになる。当局による的確なモニタリング、その前提としての金融機関自身による的確なリスク管理を通じて、金融システムの安定が確保されていくことを期待したい。
(※1)「金融行政方針」は、「1.金融機能の更なる発揮を促し、持続的な成長に貢献する」、「2.金融システムの安定や市場の公正性・透明性を確保する」、「3.国民への貢献のために常に進化し続ける組織をつくる」の3章で構成されている。
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専務理事 池田 唯一

