離れて暮らす親とのコミュニケーション・ツールにもなるスマートウォッチの活用

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2023年09月15日

本日は9月15日。2年前も同じ日にコラムを担当させていただいた(「敬老の日を機に始めたい親とのコミュニケーションとは」(※1))。昭和世代の私は、やはりこの日が来ると「敬老の日」だと思ってしまう(今年の敬老の日は9月18日)。

昨年の敬老の日を前に総務省が発表した統計(推計)によると、2022年9月15日時点で65歳以上の高齢者数は過去最多の3,627万人だった。総人口に占める高齢者人口の比率は29.1%と、ほぼ3割に相当している。また高齢者で1人暮らしをしている比率も上昇している。1980年には男性で4.3%、女性で11.2%だった比率は、2020年には男性15.0%、女性22.1%となっている。

特に1人暮らしの高齢者で心配されるのは健康や病気である。少し古いデータになるが、内閣府の「平成27年版高齢社会白書(※2)」(2015年)の中にある「一人暮らし高齢者に関する意識」によると、1人暮らしの高齢者にとっての「日常生活の不安(複数回答)」では、「健康や病気のこと」が58.9%と最も高く、「寝たきりや身体が不自由になり介護が必要な状態になること」が42.6%と次に高くなっている。

高齢の親と離れて暮らす子どもにとっても、高齢の親の健康は心配だ。防犯対策・セキュリティの大手ALSOKのアンケート調査(2017年実施)(※3)によると、70歳以上の高齢の親と別居している子どもの半数以上が、高齢の親に不安があると感じているようだ。このような高齢の親、別居する子どもの双方の悩みを少しでも解消するようなサービスが注目される。以前から、高齢親に救急通報用のペンダントを持たせ、緊急時にペンダントを握ることで契約したセキュリティ会社に通報するサービスはあった。これに加え、2021~2022年から、自宅内の生活動線(トイレ等)にセンサーを設置し、一定時間動きがない場合にセキュリティ会社に通報したり、室内の温度や湿度から熱中症のリスクを別居する子どもに通知したりするサービスが登場した。このようなサービス市場の規模は、今後も拡大していくと思われる。

一方で、健康意識の高まりから、ウォーキング、ジョギング、山登り、ゴルフ、ヨガ、水泳などに取り組み、元気で活動的な高齢者も多い。「(高齢な親の)健康や病気は心配だけど、元気なうちはまだ親を見守るサービスは早いのでは…」との考えは、親にも子にもあるだろう。親は親で「子どもには心配をかけたくない」と思い、子は子で「心配だけどどうやって話しを切り出していいか分からない」と考えるのではないだろうか。

そのような親子の場合、敬老の日や次のクリスマス・プレゼントに、スマートウォッチを親にプレゼントするのはどうだろうか。スマートウォッチの中には、転倒検知機能が備わり、異常発生時には着用者の位置情報を添えて登録された電話番号にショートメッセージを送る機能が搭載されているものがある。また、歩数計、移動距離、消費カロリー、睡眠状態を測れるものもある。セキュリティ会社のサービスとは異なり、異常発生時に誰かがすぐかけつけられるわけではないが、親と子で連絡を取れるようにし、また健康状態を「見える化」することで、お互いの悩みも解消に向かうだろう。

ただし、スマートウォッチも親が使い慣れてくれないと、悩み(+ストレス)は増えてしまう。非常時の連絡先に子どもの携帯電話番号を登録したり、ジョギングなどのアクティビティをスマートフォンと同期させたりする等、便利に使うための初期設定は多い。説明書もメーカーのウェブサイトからダウンロードするなどして確認するようになっているので、デジタル機器のネット接続等に慣れていない高齢者でなくても、面倒になって便利な機能を使わなくなってしまうケースも実際には少なくないだろう。メーカーのヘルプデスクに電話すればよいのだが、状況をうまく説明できなかったり、聞くのが恥ずかしかったりするので、「まぁ、いいか」で済ましてしまう人もいるだろう。離れて暮らす子どもに電話で聞いてみても、親の状況が今ひとつ把握できなくて、解決に時間がかかることはある。ここは根気強く、子どもが頑張って親をサポートするしかない。これも親子のコミュニケーションの良い機会になるはずだ。

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中村 昌宏
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 中村 昌宏