敬老の日を機に始めたい親とのコミュニケーションとは

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2021年09月15日

今日9月15日は、かつて「敬老の日」だった日である。2003年(平成15年)から敬老の日は「9月の第3月曜日」となっているが、私のような昭和世代の中には、9月15日が来ると敬老の日を思い出す人も少なくないのではないだろうか。

改めて言うまでもないが、日本では高齢者が増えている。昨年の敬老の日を前に総務省が発表した統計(推計)によると、2020年9月15日時点で65歳以上の高齢者数は過去最多の3,617万人となったが、2030年には3,716万人、2040年には3,921万人と、今後いっそう増える見込みである。

このような中、公共施設や職場などでのバリアフリー化や、働く意欲がある高齢者がその能力を発揮できるような法律の整備等が進められ、高齢者が社会で活躍しやすい環境の整備が進められてきた。2020年の高齢者の就業者数は906万人と、2004年以降、17年連続で前年に比べ増加している。

同時に、加齢に伴い避けることのできないことも多い。そのひとつが認知症である。現在、65歳以上の6人に1人が患っているといわれる認知症の患者数は、高齢者の増加に伴って増えていくものと予想される。認知判断能力が低下すると、例えば銀行のキャッシュカードの暗証番号を忘れてしまい、ATMで預金の引き出しができなくなるケースがある。銀行の預金は預金者本人の意思確認が必要で、成年後見人や任意後見人のような代理権がなければ、家族であっても預金を引き出すことができないからである。

では、成年後見制度(法定後見制度、任意後見制度)が活用されているかといえば、そうではない。2020年時点、認知症有病者数が約600万人と推計される中、成年後見制度の利用者数は約23万人と、認知症有病者の1割にも達していない。さらには、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備え、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に自分の生活、療養看護、財産管理に関する事務についての代理権を与える任意後見制度の利用者は、約3,000人に留まっている。

制度の利用を増やすには、行政主導で広く国民に知らせることも必要だが、最も重要であり難しいのが家族での話し合いの機会を増やすことだろう。認知症について家族間で話し合いたいと思っても、「縁起の悪い話題」との先入観から避けられがちとなるケースは多い。また、高齢者本人も頭の中では「事前準備は大事だ」と分かっていても、判断能力が十分なうちは、「まだ自分は大丈夫」と考えがちになる。

そこで提案したいのが、敬老の日をきっかけとしたコミュニケーションだ。いまや60歳以上であっても8割以上がスマートフォンを利用しており、ビデオ通話や短文会話も手軽にやりとりできる。一度に全てを決めるかのように急ぐのではなく、まずは認知症になったときにどうするかといった会話を始めることを意識したらどうだろうか。今年の敬老の日は9月20日である。

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中村 昌宏
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 中村 昌宏