中国、ワードクラウドで読み解く政府活動報告。消された李克強色

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2023年03月13日

  • 経済調査部 経済調査部長 齋藤 尚登
  • 経済調査部 研究員 中田 理惠

10年にわたり首相を勤めた李克強氏には、同氏の政策を象徴するいくつかのキーワードがある。李克強氏が首相就任後初めてとなる2014年と、翌年の政府活動報告について、ワードクラウドを作成したのが、下図である。ワードクラウド作成にあたり、分析対象を2009年~2015年の政府活動報告とした。ワードクラウド上にはその年に新しく出現した単語が示され、出現回数が多いものほど大きく表示される。なお、重要でない単語を除くため、分析対象を主に名詞、動詞、形容詞に絞った上で、「我」(私)等といった中立的かつ多用される単語は除外した。

2014年のワードクラウド(左)を見ると、「领导人」(領導人。リーダー、習近平氏を指す)や「经济带」(経済帯。経済ベルト、一帯一路)など、習近平氏にゆかりのあるキーワードに加えて、李克強氏の政策を反映したキーワードも盛り込まれていることが確認できる。具体的には、「合理区间」(合理区間。成長率を合理的な範囲にコントロールする)、「简政放权」(簡政放権。政府の関与・介入を縮小し、権限を移譲する)、「精准」(精準。財政・金融政策は的を絞り精確に、ばらまきはしない)などである。2015年の政府活動報告のワードクラウド(右)では、「大众创业」(大衆創業。大衆による創業・起業)、「万众创新」(万衆創新。万人によるイノベーション)がそれに該当する。

2014年の政府活動報告のワードクラウド/2015年の政府活動報告のワードクラウド

上記5つの李克強氏独自の政策を象徴するキーワードは、2023年の政府活動報告の当該年部分では、ほとんどが姿を消し、わずかに「精准」(精準)が残るのみになった。名実ともに李克強時代が終焉することを物語っている。

このコラムがアップされる3月13日に第14期全国人民代表大会(全人代)第1回会議が閉幕し、李強氏と目される新首相が記者会見を行う予定である。その席で同氏の基本的なスタンスや考え方が披露されることになっているが、この段階で独自色が打ち出される可能性は低いのではないだろうか。少なくとも習近平・李克強政権では、国務院(政府)がある程度の存在感を持っていたが、習近平一強体制の下では党と政府が一体化する様相を呈しつつある。そもそも共産党一党独裁の中国では、チェック機能は働きにくかったが、それがさらに深刻化する懸念がある。1年後の政府活動報告のワードクラウドは、党の方針とそっくり同じになりそうな気がしている。

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齋藤 尚登
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