ファンドの流動性規制、新たなシステム構築が不可欠に
2021年12月21日
2020年4月の金融安定理事会(FSB)の報告によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、流動性の低い資産に投資しているファンドから多額の資金が引き揚げられ、ファンドの流動性に懸念が生じたという(※1)。
こうした状況を受けてか否かは定かではないが、日本では、2022年1月より、新たに改定されたファンドの流動性規制の適用が開始される。規制の出所は、「金融商品取引業等に関する内閣府令」及び「投資信託及び投資法人に関する法律施行規則」の改正(2020年6月)だが、具体的な内容は投資信託協会の自主規制に定められている(※2)。
投資信託協会の自主規制は、流動性リスク管理態勢の整備や、流動性リスクの注意喚起を定めている。
流動性リスク管理態勢の整備には、二点、重要なポイントがある。
一つは、個別の公募投資信託の保有資産について、社内規則にて、流動性の程度に基づく階層分類を設定し、それらの保有基準を策定することである。
流動性の程度に基づく階層とは、「I. 高流動性資産」(3営業日以内で売却可能)、「II. 中流動性資産」(4営業日から7営業日以内で売却可能)、「III. 低流動性資産」(8営業日以上かかって売却可能)、「IV. 非流動性資産」(8営業日以上かかっても顕著なマーケットインパクトなしに売却不可)の四つである。
保有基準の策定とは、「I. 高流動性資産」の閾値の下限と、「IV. 非流動性資産」の閾値の上限を設けることである。
いま一つは、ストレステストの実施に基づく保有資産の詳細な流動性分析である。ストレスシナリオには、COVID-19の感染拡大のようなパンデミックを組み込むことが必須となろう。
流動性リスクの注意喚起は、交付目論見書への記載により行う。
具体的には、ファンドの流動性リスクが顕在化する可能性のあるケースについて説明しなければならない。また、「IV. 非流動性資産」が主要投資対象であるファンドで、解約請求が集中する等した場合に繰上償還が困難となるファンドについては、表紙に換金性に欠ける旨を目立つように表示する。
これらの新規制について、冒頭で「2022年1月」より適用開始と述べたが、実際には、猶予期間が設けられている。
具体的には、運用会社(委託者)及び信託銀行(受託者)において、システムの構築における自社の状況等を踏まえた合理的な実施計画を策定し、当該実施計画に定めた完了期日までに実施することで足りる。
いずれにせよ、新たに改定されたファンドの流動性規制の対応にあたっては、運用会社(委託者)及び信託銀行(受託者)において、新たにシステムの構築を行うことが不可欠となろう。
(※1)FSB“COVID-19 pandemic: Financial stability implications and policy measures taken”(2020年4月15日)参照
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ニューヨークリサーチセンター
主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光
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