SFDR(EU資産運用会社等のサステナビリティ開示規制)、「先送り」か

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2021年03月24日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

この一年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界を席巻した。しかし、そうした中でも、従来からのESG(Environmental, Social, and Governance)や SDGs(Sustainable Development Goals)への関心が低下することはなかったといえる。

とりわけ、日本の金融業者にとって、潜在的な懸案事項となっているのが、EU(欧州連合)のSFDR(EU Regulation on Sustainability related Disclosures in the Financial services sector)である。これは、EUの資産運用会社等を対象としたサステナビリティ関連の開示規制であり、「サステナビリティへの悪影響の開示」(事業体レベル)、サステナビリティ関連の「契約前開示(交付目論見書)」・「ウェブ開示」・「定期報告(アニュアルレポート)」(以上、商品レベル)を求めている(※1)。

なぜ、EUのルールであるSFDRが、日本の金融業者の懸案事項となるのか?それは、EUの資産運用会社等から運用の再委託を受ける場合、SFDRの遵守に必要な情報提供を求められる可能性があるためである。

そこで真っ先に思い立つのが、「2021年3月10日」という、すでに過ぎた日付である。これは、SFDRの最速の適用開始日である(※2)。この期日は、2019年12月9日に公表されたSFDRの「本則」に定められている。従って、EUの資産運用会社等と関わりを有する日本の金融業者は、いつ何時、「SFDR対応」を求められてもおかしくない状況にある。

もっとも、先月、EUより、SFDRの適用のタイミングについて、「先送り」を示唆する情報が出ている。

SFDRは、具体的な開示項目や開示フォーマットを、欧州委員会が採択する「細則」に委ねている。「細則」は、EUの銀行・証券・保険の監督当局(ESAs: European Supervisory Authorities)が協同でドラフトを作成する。ESAsは、「細則」のドラフトを2020年中に欧州委員会に提出すべく、準備を進めてきた。

この「細則」のドラフトの提出が、COVID-19のパンデミックの影響か、遅延し、2021年2月4日となった。このドラフトを見ると、ESAsは、「細則」に則った開示の適用開始日を「2022年1月1日」に先送りすることを提案しているのである。

この適用開始日を踏まえて、具体的な「開示すべき期日」として示すと、例えば、もっとも開示負担の大きい「サステナビリティへの悪影響の開示」(事業体レベル)を、「細則」に則って開示をすべき最初の期日は、「2023年6月30日」(2022年事業年度を対象とする)である。さらに、二酸化炭素排出の「スコープ3」(間接排出量)については、さらに一年先の「2024年6月30日」(2023年事業年度を対象とする)である。

欧州委員会は、4月中にも、SFDRの「細則」を採択することが見込まれる。「SFDR対応」の負担の大きさを懸念する日本の金融業者においても、ESAsのドラフトで示された「先送り」が採用されるか否かは、重大な関心事といえよう。

(※2)いわゆる「EUタクソノミー」の気候変動関連の環境保護目的を踏まえた「契約前開示」、及び「定期報告」については、適用開始日が「2022年1月1日」とされている。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光