消費税率の引き下げは本当に低所得世帯支援に最適な政策なのか
2026年01月26日
高市早苗首相は通常国会冒頭で衆議院解散を表明し、1月27日公示、2月8日投開票の日程が固まった。衆院選にあたっては、与野党問わず主要政党のほとんどが、消費税率全体または食料品に限った消費税率の引き下げを主張している。選挙結果にかかわらず、衆院選後は消費税の扱いをめぐる本格的な検討が進む公算が大きい。
消費税率の引き下げは、一般に「低所得世帯の負担軽減につながる」と語られることが多い。確かに、低所得層ほど所得に占める消費の割合(平均消費性向)が高く、消費支出に占める食料品の比率(エンゲル係数)も高い。そのため、消費税減税による減税額が所得に占める割合は高所得世帯より低所得世帯のほうが大きくなり、食料品に限ればさらにその差は開く(※1)。
しかし、絶対額で見れば必ずしも低所得世帯が最も恩恵を受けるわけではない。高所得世帯は消費支出額が多く、食料品支出額に限っても多い傾向にあるため、税率引き下げによる減税額そのものは高所得世帯のほうが大きくなりやすい。
また、高齢者世帯には別の問題がある。公的年金には、物価上昇に応じて支給額が調整される「物価スライド」があるため、消費税率引き下げによって物価上昇率が低下すると、年金の改定率も低下する(※2)。この仕組みにより、生活費の大部分を公的年金で賄う多くの高齢者世帯は消費税率を引き下げられても、購買力増加の恩恵をほとんど受けない。
一方で、高齢者世帯の中で比較的高所得の世帯は、私的年金や資産取り崩しも消費に充てている。こうした世帯では、消費税率が引き下げられると、物価連動しない収入部分の購買力が増すこととなる。
そもそも、消費税は(公的年金の支給額からは実質的に負担を求められないものの、それ以外の部分については)労働所得のない高齢者にも負担を求めることができる点で、世代間の公平性を図りながら社会保障の安定財源を確保できる税として、与野党で合意形成を行いながら税率が引き上げられた経緯がある。
低所得世帯への支援を実施する場合、財政負担(減税額または歳出増加額)が同じであれば、税率引き下げよりも国民全員への一律給付のほうが、負担軽減効果は大きくなる。給付や減税を中低所得層に重点化する「給付付き税額控除」を採用すれば、より効果的な支援も可能だ。そもそも物価連動する公的年金の受給者に重ねて物価高対策をする必要性は低いと考え、支援の対象を労働所得のある現役世代に絞る選択肢もある。つまり、消費税率の引き下げが最適な政策なのかは、他の選択肢と比較して判断する必要がある。
衆院選後、いずれの党が主導することとなったとしても、新しい国会では消費税の扱いが主要議題になる可能性が高い。その際は、政策目的と実際の効果を丁寧に比較し、データに基づいた実証的な議論が行われることを期待したい。
(※2)物価上昇時しか公的年金のマクロ経済スライド(少子高齢化を反映した給付水準の調整)を行えないため、物価上昇率がマイナスになるほど消費税率を引き下げた場合、公的年金の実質価値が増加する可能性はある。ただし、マクロ経済スライドが行えなかった分は、翌年度以後にキャリーオーバーされ、物価が上昇した際に調整が行われる。このため、物価が長期低迷しない限り、マクロ経済スライドを考慮しても、消費税率の引き下げによる公的年金の実質価値の増加は一時的なものにとどまる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
金融調査部
主任研究員 是枝 俊悟
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米国アセット・ウェルスマネジメント業界のダイナミズム
~変革を生み出すイノベーションとは~『大和総研調査季報』2026年新春号(Vol.61)掲載
2026年01月26日
-
デジタル通貨覇権競争の幕開けと次世代決済の展望
『大和総研調査季報』2026年新春号(Vol.61)掲載
2026年01月26日
-
女性特有の健康課題にどう向き合うか
~対応加速と国際標準化への備え~『大和総研調査季報』2026年新春号(Vol.61)掲載
2026年01月26日
-
新春を迎えて
『大和総研調査季報』2026年新春号(Vol.61)掲載
2026年01月26日
-
消費税率の引き下げは本当に低所得世帯支援に最適な政策なのか
2026年01月26日

