蓄電所ニュースでHTTに立ち返る

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2025年12月17日

  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 平田 裕子

2025年は、蓄電所開所のニュースが相次いだ。背景には、再生可能エネルギー電力の最大活用に向けて蓄電池導入を後押しする補助制度や接続ルール、市場整備などが進展したことがある。2026年も引き続き注目テーマになるだろう。

そんな折、東京都が推進する公的キャンペーン「HTT(へらす・つくる・ためる)」のCMを見ると、改めて立ち返る気持ちになる。HTTはH(へらす:省エネ)、T(つくる:再エネ)、T(ためる:蓄電)を示すが、単なる脱炭素の取り組みの羅列ではない。『順番』を示している点がミソだと思っている。キャッチコピーには、「へらすの次は、つくる、ためる。」とある。まずはエネルギー利用を最小化し、それでも必要な分をつくり、最後にためて融通する。この『順番』という考え方は、持続可能なエネルギー戦略の重要なポイントと筆者は考えている。

脱炭素に向けて再生可能エネルギーが不可欠なエネルギーであることは間違いないが、開発には土地競合や資源利用、産業廃棄物など別の環境負荷が伴い、トレードオフは避けられない。一方、省エネは運用改善や設備更新のタイミングで実現できることが多く、新たな環境負荷は発生しにくい。加えて、エネルギー費用削減というメリットを享受できる。IEAが省エネを最も重要な燃料「第一の燃料 」と呼ぶゆえんであろう。2010年に始まった東京都の排出量取引制度は、当初省エネに重点を置く制度設計がされており、結果として対象事業所の生産性向上に繋がった可能性が示唆されるなど 、大変興味深い。

様々な企業の方と話をしていると、再エネや蓄電池をはじめ、その先の、水素、SAF、CCUS、DAC といった脱炭素技術が話題になることも多い。それらの可能性や重要性は認められるが、高次の技術になるほど環境・経済へのトレードオフにも注意が必要になる。

『順番』を見失わないこと、いつでも「H」から組み立てることをおススメしたい。

(※1)IEA(国際エネルギー機関)が2013年にEnergy Efficiency Market Reportを発表した際に用いた表現。エネルギー効率化を「最も重要な第1の燃料」と位置付けた。

(※3)SAF:Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)の略。廃食油や植物などを原料に作られる航空燃料。CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)の略。工場等から排出されるCO2を分離・回収し、資源として利用したり、地中深くに貯蔵する技術。DAC: Direct Air Capture(直接空気回収技術)の略。大気中から直接二酸化炭素を分離・回収する技術。

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平田 裕子
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マネジメントコンサルティング部

主任コンサルタント 平田 裕子