プラスチッククレジットと拡大生産者責任(EPR)制度の連携の行方

RSS

2025年09月29日

プラスチック汚染問題は、消費者の環境意識の高まりや各国の規制強化を受け、サプライチェーンやブランド価値に直結する経営上の重要課題となりつつある。その規制強化の代表例が、製品の廃棄・リサイクルまで生産者が責任を負う拡大生産者責任(EPR)制度であり、先進国に続き、近年は新興国でも導入が進んでいる。しかし、多くの新興国では、資金やインフラの不足からEPR制度の実効性が伴わないケースが少なくない。この課題に対し、認証機関である米Verraなどが市場メカニズムを活用した解決策として「プラスチッククレジット」との連携を提案している(※1)。

プラスチッククレジットは、廃棄物の回収・リサイクル活動量を第三者が測定・報告・検証(MRV)し、その環境価値をクレジットとして取引可能にしたものである。Verraは、EPR制度の義務を負う企業がクレジットを購入することで義務の一部を果たせる仕組みを提唱している。これにより企業の資金が現地の回収・リサイクル事業へ直接還流され、EPR制度の実効性向上が期待される。一方、プラスチッククレジット購入の目的が企業の自主的な貢献から義務の履行へと変化することは、市場全体の規模を拡大させる推進力となりうる。このように、EPR制度とプラスチッククレジットの連携は、双方に便益をもたらす可能性がある。

しかし、この有望な連携モデルが普及するには、二つの大きな課題を乗り越える必要がある。一つは、先行するカーボンクレジット(※2)市場と共通する課題である、信頼性の確保だ(※3)。公的なEPR制度の義務履行に用いる以上、グリーンウォッシング(見せかけの環境対応)への懸念を払拭し、信頼できる国際基準の整備と透明性の高い運用の仕組みの構築が不可欠となる(※4)。もう一つが、カーボンクレジットにはないプラスチック特有の課題だ。温室効果ガス(GHG)と異なり、プラスチック汚染はローカルな問題である。単純な量の相殺(オフセット)だけでは、特定の地域のプラスチック汚染の状況を直接改善することにはならない。企業が製品を販売した国・地域や、自社製品の材質と整合するクレジットの利用を求めるなど、その複雑さに対応した精緻なルール設計が求められる。

EPR制度とプラスチッククレジットの連携という試みの成否は、この信頼性と複雑性の課題を克服できるかにかかっている。国内外でEPR制度が強化される傾向は続いており、特に新興国において、クレジットの活用はその具体的な履行手段の一つとなる。企業においては、自社のプラスチックフットプリント(使用・廃棄量)の把握を進めるとともに、このような新しい仕組みの進展を注視しておく必要があるだろう。

(※1)Verra Discussion Paper, “Plastic Credits and Extended Producer Responsibility”(July 29, 2025)

(※4)World Bank, “Unlocking Financing to Combat the Plastic Crisis”(June 2024)

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

依田 宏樹
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 依田 宏樹