大阪・関西万博で考える「いのち輝く未来社会」

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2025年07月18日

「大阪・関西万博」は、会期(2025/4/13~10/13)の折り返し地点を迎えた。想定来場者総数2,820万人に対し、一般来場者累計数は7月12日時点で約1,011万人。夏休みを控えて来場者数の増加が予想され、追加的な対応策が進められている。万博を訪れた人の話を聞き、筆者も7月上旬に万博を訪れてみた。趣向を凝らした数々のパビリオン。美しい木目で大きな円を描く大屋根リングの上から眺めると、その景色は壮観だ。敷地は広大で全てを回りきることは難しいが、歩いてみるだけでも世界を旅する高揚感が高まってきた。キャラクターの「ミャクミャク」が人気だそうだ。

万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。サブテーマは「Saving Lives(いのちを救う)」、「Empowering Lives(いのちに力を与える)」、「Connecting Lives(いのちをつなぐ)」。2030年までのSDGs(持続可能な開発目標)達成への貢献および日本の国家戦略Society5.0(※1)の実現のためのプラットフォームになることを目指している。世界各国の公式参加者は、サブテーマ及びSDGs17の目標から各々一つ以上を選んで達成に向けた優れた取り組みを持ち寄り、会場全体でSDGsが達成された未来社会の姿を描き出している。「いのち輝く未来社会」とは、どのような社会が描かれているのだろうか。

「いのち」に関係のない人は世界中どこにもいないだろう。医療ばかりではなく、食料、中東やウクライナでの武力紛争や難民問題など深刻な課題が山積みだ。第2次トランプ政権誕生後は米中対立など経済・貿易問題の緊迫感も高まっている。そして、「いのち」は人類ばかりのものではない。魚や鳥、森林など「いのち」あるものは限りない。

現実を見ると、SDGsの目標期限2030年にあと5年に迫る中でその達成には程遠い。2025年6月24日に発表された「持続可能な開発報告書(Sustainable Development Report)」では、SDGs17目標のうちどれも2030年までに達成される目途がたっていないことが示された。日本については、SDG5(ジェンダー平等を実現しよう)、SDG12(つくる責任、つかう責任)、SDG13(気候変動に具体的な対策を)、SDG14(海の豊かさを守ろう)、SDG15(陸の豊かさも守ろう)が、達成に多くの課題が残っている「レッド」と評価され、SDG2(飢餓をゼロに)も新たに「レッド」評価に加わった。

もっとも、こうした中で目を引くのが、前年から改善し、日本で唯一目標達成を示す「グリーン」と評価されたSDG3(すべての人に健康と福祉を)だ。主観的なウェルビーイング認識の評価が大幅に上昇したことによる。ウェルビーイングとは身体的・精神的な健康や社会的な充足感が満たされた状態を意味し、近年の日本では企業や自治体による取り組みも進められている(※2)。世界を見渡すと、SDG3で「グリーン」の評価を得た国は、日本とノルウェーの2カ国だけだ。

ヘルスケアやウェルビーイングの先進国である日本で開催された大阪・関西万博は、よりよい生き方や「いのち」のあり方について考える良い機会となるだろう。例えば、大阪ヘルスケアパビリオンでは、iPS細胞による心筋シートや心臓モデルなど未来医療の展示に人だかりができていた。オランダパビリオンは「コモングランド(同じ土台に立つことによって、新しい発想が生まれる)」をテーマに、エネルギーに関する革新的なソリューションを展示中だ。テクノロジーが未来を変えていく。分断に身構える世界情勢にも関わらず、158の国と地域、7つの国際機関が一堂に会し、未来社会の「協創」に取り組む意義は大きい。「多様でありながら、ひとつ」を表す大屋根リングの上に立ち、万博が奏でるユートピアに想いをはせてみたい。

<参考>

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山田 雪乃
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執行役員 リサーチ担当 山田 雪乃