「年収の壁」とされる課税最低限の引上げはどのように行うべきか

基礎控除の引上げよりも、給付付き税額控除が適切な方法

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2025年12月02日

サマリー

◆昨年に引き続き2026年度税制改正でも「年収の壁」とされる所得税の課税最低限の引上げが政治課題となっている。本レポートでは、様々な方法で所得税の課税最低限(基礎控除等)の追加引上げを実施した場合の家計と財政への影響を試算した。

◆仮に国民民主党の主張通り所得税の基礎控除を一律113万円に引き上げると、国の税収は約1.7兆円減少する。家計では、年収160万円以下の者は所得税非課税のため税負担は変わらず、年収200万円以下の者の減税も年間0.4万円にとどまる。一方、年収1,000万円の者は年間11.2万円の減税になり、高所得者の減税額が大きくなる。

◆一方、所得控除ではなく税額控除によっても課税最低限の引上げは可能だ。税額控除を導入すれば、高所得者への減税額を一定に抑えつつ、財政への影響を抑制できる。大和総研では、税額から引ききれない控除額につき「労働所得に係る社会保険料」の範囲で給付を行う「社会保険料還付付き税額控除」を提案している。社会保険料還付付き税額控除であれば、「働く低所得者」への支援を強化し、実際の手取り減少を生じさせている「社会保険料の壁」の緩和にも資する。

◆現在の日本の税・社会保障の負担構造は、低所得世帯の純負担率が高く、かつ、所得税の累進性が低くなっている。現状の課題を踏まえると、所得税の課税最低限を引き上げるのであれば、その方法は、基礎控除の引上げよりも給付付き税額控除の方が望ましい。

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